討議資料・見解・私学おおさか

2011/6/15
「君が代」起立・斉唱を強制する大阪府条例案に反対します
                                  
2011年5月30日
                               大阪私学教職員組合
                              幼小中高校専門学校部
                                   執行委員会

大阪府橋下知事が代表の「大阪維新の会」府議団は5月25日、府施設での「日の丸」の常時掲揚と府立学校や府内の市町村立学校の教職員に対し、学校行事での「君が代」斉唱時に起立を義務づける条例案を議会に提出しました。
 東日本大震災と原発事故という、日本社会が危機に直面している時に、橋下知事と「大阪維新の会」は突然に条例案を出し、府民の議論や合意も全くないまま、数の力で条例制定を強行しようとしています。
 今、大阪府と府議会に求められているのは、府の福祉政策の拡充や府民の命と暮らしを守る防災施策の確立、大阪の中小零細企業・自営業者の経営支援、労働者の雇用確保など、府民の切実な要求をいかにすすめるか、そして、東日本の被災地へ大阪府が救援・復興支援に最大限の力を尽くすことです。
 しかし、橋下知事と「維新の会」は、府民の要求でもなく、いっせい地方選での「維新の会」の公約にもなかった条例案を「今、なぜ制定なのか」という説明もなく強行しようとしています。
 私たちは、この「君が代」の起立・斉唱を法律で強制する条例案に反対するとともに、「大阪維新の会」に強く抗議するものです。

 条例案は第1条(目的)に「府民、とりわけ次代を担う子どもが伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する意識の高揚に資するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と、府立学校及び府内の市町村立学校での「服務規律の厳格化」を掲げています。
第3条では、「国旗」は執務時間中、施設利用者に見やすい場所に常時掲げるよう定め、第4条の「国歌」の斉唱では「教職員は起立により斉唱を行うものとする」と義務づけています。
 条例案に罰則はありませんが、橋下知事は、罰則規定の条例案を9月議会で提案する方針を表明しており、また、処分とは別に実名や所属学校名の公表も検討する考えを示しています。

 「国旗」(日の丸)の掲揚と「国歌」(君が代)の斉唱については、一般的な「国歌・国旗」論では論ずることのできない問題があります。すなわち、「日の丸」が戦前の日本の侵略戦争、アジア・太平洋戦争の旗印であったことや「君が代」が天皇崇拝と軍国主義の確立・強化の手段であった歴史があります。故に、「日の丸・君が代」を「国旗・国歌」とすることに国民の中で反対の意見も少なくありません。このような現状に鑑みれば、「日の丸・君が代」の掲揚・起立斉唱という行為を強制することが思想・良心の自由、内心の自由という基本的人権を侵す憲法違反であることは明白です。
 特に、条例で斉唱時の個人の行動まで強制したり、規制することは、日本国憲法が定めた国民主権(第1条)、基本的人権の尊重(第11条)、個人の尊重(第13条)、思想及び良心の自由(第19条)などに明らかに反するものです。そして、いかなる理由を挙げようと、行政(権力)が法律でもって教職員に「君が代」を起立させて歌わせる、起立したくない、歌いたくないという教職員に罰則を科せるなどは、憲法に違反するという問題以前の、人間の尊厳を踏みにじる暴挙です。

 条例案第1条の「目的」では「府内の学校における服務規律の厳格化を図る」ことを挙げており、橋下知事は違反者を免職にできる罰則規定の条例案を9月議会でつくりたいと表明しています。職務命令に従わない教職員を解雇し、教職員に対する教育委員会の支配・介入を合法化しようとする、この条例案の本質的で危険なねらいがここに明らかとなっています。
 2011年3月10日、東京高裁は卒業式での国歌斉唱時に起立斉唱しなかった都立学校教職員に対する懲戒処分取り消しの判決を言い渡しました。その判決は教職員らの不起立行為が「歴史観ないし世界観又は信条及びこれに由来する社会生活上の信念等にもとづく真摯な動機によるもの」と判断しました。この判決から見れば、この度の条例案がいかに乱暴で強権的な代物であるかがわかります。

 条例案第1条は、「国歌・国旗法」の趣旨を踏まえて定めるとしています。しかし、「国旗・国歌法」は、「1.国旗は日章旗とする。2.国歌は君が代とする。」という2条だけで、国民に掲揚や斉唱を義務づける条項は、いっさい設けられていません。
「国歌・国旗法」制定当時、国会では「義務づけを行うものではない」ということが繰り返し確認され、有馬文部大臣(当時)は「これによって,国旗・国歌の指導に関わる教員の職務上の責務について変更を加えるものではない」、野中官房長官(当時)も、式典等での起立、斉唱について、起立・斉唱しない自由もあるとし、「この法制化はそれを画一的にしようというわけではない」と答弁しています。
 このように、「国歌」(君が代)の起立・斉唱を義務づける根拠となる法律はありません。また、全国の都道府県においても、このような条例案が制定された例はありません。
 大阪弁護士会の「会長声明」は、条例によって教職員に「起立」を強制する手法は「条例制定権」を「法律の範囲内」に限定する憲法94条に、そして、教育に対する「不当な支配」の排除を定めた教育基本法第16条に抵触する恐れがあると指摘しています。
さらに、重要なことは「教職員の一挙手一投足にかかわることを、現場の個別判断ではなく、条例で一律に強制することは、学校職場に無用の混乱を引き起こすことになりかねない」との指摘であり、府民的合意の基礎になると考えます。

 この条例案には、「国旗」掲揚と「国歌」の起立・斉唱を義務づける「府の施設」や「教職員」に私立学校や私立の教職員は含まれていません。しかし、この条例制定問題は学校における教職員の基本的人権、学問の自由や多様なものの考え方、自由な言論や討論の尊重など、民主主義の根幹を破壊し、教育への統制に結びつく問題であり、看過できません。
 また、入学式などで教員への起立強制がなされ、学校の統制が強まると、出席している子どもたちは事実上起立を強制されたり、心理的圧迫を受けることは明白です。
これは子どもたちの思想や良心の形成に配慮し、多様な思想や考えを学習する環境を保障すべきとする学校教育の理念に抵触するおそれがありますし、日々子どもたちの健やかな成長を願って教育をすすめる私たち私学教職員の要求に真っ向から反するものでもあります。
 大阪私学教職員組合は、大阪の公教育の一翼を担う私学の立場から、教育と学校、教職員と生徒・児童の利益に反する条例案を制定させないよう、府民の大きな共同の一翼を担う決意をここに表明します。
                                       以 上






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