討議資料・見解・私学おおさか

2010/01/19
橋下知事の私立高校無償化拡充構想について〜橋下構想の光と影
私立高校無償化へ、経常費助成と就学支援補助金の抜本的拡充は車の両輪
2010年2月16日
大阪私学教職員組合 幼小中高校専門学校部執行委員会
2月3日、新聞各紙は、橋下知事が大阪の私立高校授業料無償化制度について、2011年度から対象を年収350万円以下から680万円以下に拡大する意向を表明。対象生徒は約3万3000人程度で私立高校生の約半数、財源は新たに30億円〜40億円になる見通しであると報道しました。
 その制度設計の詳細が現段階では不明ですが、授業料無償化の拡充については、私たちの要求と合致しており、大きな前進といえます。
 父母、生徒をはじめ、私たちの長年の運動が高校学費無償化へ国の政治を動かし、さらに、様々な問題や課題を抱えながらも、都道府県での私学就学支援施策の創設、低所得層の学費無償化制度の確立がすすむ中での成果です。
 しかし、これまでの私学助成は学校に対する補助でしたが、知事は「公立、私立のどちらでも選べる環境をつくり競争を促したい」として、助成対象を家庭に変えることで直接的な補助効果を狙っており、府立高校に関しては、生徒数が一定水準を下回れば統廃合の対象にするなどの「撤退ルール」の検討に入るとし、「だめな公立はつぶれてもらう」などと発言したとの報道もあります。橋下知事の私立高校授業料無償化拡充構想の意図やねらいについては、あらためて議論が必要であり、「公立高校撤退のルールの検討」にいたっては、決して認められるものでないと考えます。
 大阪私学教職員組合は、橋下知事の私立高校無償化拡大や大阪の公立高校撤退ルール検討の意向に関し、以下に問題を提起します。

(1)私立高校学費無償化制度が始まる中で、授業料の値上げが起こる矛盾
 2010年度から府の私学無償化施策が実施されるにもかかわらず、24校が学費を値上げしました。なぜ、このような矛盾した事態が生まれるのでしょうか。
 私立高校の授業料値上げという財政問題には、私学の学園財政が安定しない制度的な問題があります。すなわち、生徒数が毎年変動する(多くの私学では減少する)ことと、私立学校への社会的、公的予算(=公費支出)である私学助成・経常費助成(=私立学校の運営に必要な経費への補助金)が極めて少ないという、私学に関する制度政策問題にその根本的な要因があります。
 経常費助成は、私立学校の教育条件・労働条件の維持・向上のための助成金ですが、大阪府下私立高校の収入に占める割合(平均)が30%に落ち込んでいます。私学の運営経費の2/3は保護者からの納付金(学費)に依存せざるを得ない現状です。故に、生徒在籍数が減少している私学では、経常費助成の削減は生徒納付金収入の減少と相まって収入全体の減少となり、学園の経営を逼迫させ、学園の教育条件の後退、切り下げにつながり、さらに生徒確保や学園財政の先細りへの理事会の不安を増幅させ、授業料値上げを引き起こしています。

(2)経常費助成は私立学校の学費、教育条件、そして存続に直結する問題
 経常費助成について大阪府は、横山ノック知事から太田知事の時期に、国が私学助成予算を増やしても府の独自の予算を削減し続け、2007年度には、ついに国からの予算額のみになりました。さらに橋下知事が就任1年目に経常費助成10%削減という大改悪を強行したことは記憶に新しいことです。その結果、大阪府下の私立高校の過半数を超える50校が学費を値上げするという最悪の事態が引き起こされたのです。そして、日本経済と国民生活の悪化がすすむ中、09年度高校入試では、高い学費の私立高校には「行けない」「行かない」中卒生が増え、私学の専願のみならず、公立高校との併願受験者も減るなど、いわゆる「私学離れ」が加速したのでした。
 低所得世帯への私学の学費無償化施策は、セーフティーネットという側面を持ちつつも、学費無償化への第一歩として評価できます。橋下知事のこの度の「2011年度から年収680万円以下学費無償化」構想それ自体は、私学無償化への大きな前進です。
 私たちは、私立高校も公立高校と同様に無償化、すなわち、私立高校も授業料を徴収しない制度の確立を求めています。そのためには、私立高校を公教育機関として位置づけ、その運営経費を公費でまかなうこと、すなわち経常費助成の抜本的な拡充が必要です。ヨーロッパ諸国では私学の運営経費の7割以上が公費です。この経常費助成を今のまま(大阪は、高校生一人当たりで約27万円、国の基準の30万円を大きく下回る)にしていては、学費問題を含め、私立高校の教育労働条件は学校任せになり、学費無償化と学費値上げが「共存する」というような矛盾はなくなりません。

(3)教育と公立・私立高校に競争原理と企業論理を貫徹させる
 私立高校無償化拡大には、公立私立に関係なく、学校選択の「自由化」で教育と学校に競争原理を貫く※「教育バウチャー制度」を目指す橋下知事の構想があるのではないかと考えられます。経常費助成は私学経営者のための制度であるという否定的で誤った評価や、生徒がたくさん集まる学校の生徒・保護者を直接支援する手厚い私学助成が必要等々、知事のこれまでの発言からすると、私学助成を経常費助成から授業料直接助成にシフトさせることを通して、私学の経営、教育労働条件に「自己責任」と「企業努力」の競争原理を貫徹させ、徹底させることを企図していると考えられます。
 私学無償化の財源確保に経常費助成を削減して無償化予算に回すというような施策をとれば、前述したように、私学の教育条件悪化や授業料値上げの要因となります。「無償化」がすすんでも、私立高校の教育条件、さらには学校そのものの維持・存続が危うくなるという問題がいっそう先鋭化するのではないかと危惧します。
 これまでも大阪府私学課は、私学専願率を上げる方策として、私学助成予算のうち、経常費助成予算を抑制・削減して授業料直接助成予算に回してきた経過があり、無償化拡充の新たな予算をどう捻出するのかと考えるとき、経常費助成を削減して無償化拡充の予算に充てる危険性は現実におこりうるのです。

(4)橋下知事の構想は競争による公私立高校の淘汰と縮小
 知事の私立高校無償化拡充構想には、公立か私立かの学校選択の「自由拡大」の名の下に、高校間の競争を公私立全体、大阪府全体ですすめ、私立高校無償化施策を公立高校のさらなる統廃合を促進する梃子にしようとする意図があるのではないのかと危惧します。
 本来、教育の自由や学校選択の自由というものは、ヨーロッパ諸国に見られるように、ゆきとどいた教育条件の下で、教育の多様性が財政的にも制度的にも保障されていることが前提であると考えます。しかし橋下知事の構想は、教育バウチャー制度を視野に入れ、公私立の高校を「いっしょくた」にして生徒獲得競争に突入させ、学校を淘汰、学校数を減らす構想です。これでは「学校選択の自由」を狭めることになります。
 また、私学の学費無償化を拡充したからと言って、知事が言うように、公立、私立高校が「対等」であるとは到底言えない現状があります。その一つは入学金です。私学の場合は平均で20万円前後の多額の入学金が必要です。二つ目は、教育・労働条件の現状です。私立高校への公費支出(経常費助成)は公立高校への公費支出の約1/3であり、依然として大きい「公費支出における公私間格差」があります。その格差を保護者が学費支出で補っているという現状ですが、私立高校の多く、特に相対的に低学費や生徒数の少ない私学では財政状況が厳しく、公立高校と比べて教育労働条件が劣悪です。知事の言うような、「私学の無償化を拡充することで公私立高校の競争は対等である」とは決して言えず、「公私立高校の対等な競争」は極めて非現実的あるばかりか、非教育的です。

(5)経常費助成の抜本的拡充で、真の私学無償化と私学の豊かな教育条件を
 橋下知事の教育に関する考えの根底に横たわるもの、そのキーワードは「徹底した競争原理、競争至上主義」、「学校・教育に対する民間企業の視点、基準」です。
 それに対し、私たちの立場と要求の第一は、憲法・教育基本法の「教育を受ける権利」「教育の機会均等」に立脚した高校教育無償化、第二は、私学の教育条件と私学で働く教職員の労働条件の維持・向上、そして、それを土台にした私立学校教育の充実です。
 私たちは、公立・私立の学校の生き残り競争とそれを促進するような教育政策や私学政策に反対します。そして、すべての生徒たちがお金の心配なく、安心して高校に通えるよう、高校教育を受ける権利を一人ひとりの生徒に保障すること、そして、ゆきとどいた高校教育をすすめる国民・府民のための私立高校づくりをすすめます。
 教職員、父母、生徒、私学経営者、そして多くの府民との共同で、学費の抑制・値下げ、教育条件の改善に直結する経常費助成と就学支援補助(授業料軽減補助)の抜本的拡充を学費無償化実現への車の両輪と位置づけ、取り組んでゆきたいと考えています。 


                                      以 上






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