討議資料・見解・私学おおさか

2009/2/16
大阪府の新たな「私立高校教育振興」策は

私学をどこへ導くか

2005/05/24
《無償化関連資料》
 
 日本政府は、国際人権規約「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約。A規約)を1979年に批准しましたが、そのうち、中等・高等教育の漸進的無償化を定めた第13条2項(b)(c)をはじめ、4つの条項について留保し続けています。
 高等教育無償化条項を留保している国は、締約国151カ国(2005年1月25日現在)のうち、日本、マダカスカル、ルワンダの3カ国のみです。
 社会権規約の締約国は、この規約に謳われた権利の実現のためにとった措置などについて、国連に定期報告を行うことが義務づけられていますが、2001年に日本政府が提出した第2回報告に対して、国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」(社会権規約委員会)は調査・審査を行ったのち、「最終見解」を発表し、留保の撤回を検討することを強く求める厳しい勧告を行いました。またその中で、2006年6月30日までに第3回報告を提出し、そこでこの勧告を実施するためにとった措置について詳細に報告することを要請されています。
 
 以下に、次のものを入れています。
 イ)「世界人権宣言」
 ハ)「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書」
 ニ)批准の際の日本の書簡
 ホ)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第7条
 ヘ)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第8条
 ト)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第13条
 チ)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会からの質問事項に対する日本政府回答
 リ)社会権規約委員会の「最終見解」(2001年8月30日採択、外務省仮訳)
 ヌ)子どもの権利条約(1989年)第28条
 ル)憲法(1947年3)第14条第26条
 ヲ)教育基本法(1947年)第1条第3条第6条第10条
 ワ)私立学校法(1949年)
 カ)私立学校振興助成法(1975年)
 ヨ)学習権宣言(1985.3.パリ)
イ)「世界人権宣言」
 
 1948年12月10日国連総会において採択。
 法的な拘束力はないが人権及び自由を尊重し確保するために、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準を定めたもの。
 1950年、国連総会において、毎年12月10日を「人権デー」(Human Rights Day)として、世界中で記念行事を行うことが決議されました。
 
ロ)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)
ロ)「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)
 
 共に、1966年12月16日採択、A規約は、1976年1月3日発行、B規約1976年3月23日発効
 法的な拘束力をもつ。
 日本は、1979年6月21日一部を除いて批准
 
ハ)「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書」
 
 B規約の実施に関連して、同規約に掲げる権利の侵害について締約国の個人が行った通報をこの規約によって設けられた人権委員会が審議する制度について規定したものも採択された(現在は、「第二選択議定書」)。
 
ニ)批准の際の日本の書簡
 
 日本は、この規約の批准書の寄託に当たり、署名の際に行つた宣言を確認する旨の通告を国際連合事務総長あて書簡により行った。
 
 書簡をもつて啓上いたします。本使は、本国政府に代わり、日本国政府は経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約及び市民的及び政治的権利に関する国際規約を批准するに当たり署名の際に行つた次の宣言を確認することを通告する光栄を有します。
1 日本国は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第七条(d)の規定の適用に当たり、 この規定にいう「公の休日についての報酬」に拘束されない権利を留保する。
2 日本国は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第八条1(d)の規定に拘束されない 権利を留保する。ただし、日本国政府による同規約の批准の時に日本国の法令により前記の規定に いう権利が与えられている部門については、この限りでない。
3 日本国は、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第十三条2(b)及び(c)の規定の適 用に当たり、これらの規定にいう「特に、無償教育の漸進的な導入により」に拘束されない権利を留保 する。
4 日本国政府は、結社の自由及び団結権の保護に関する条約の批准に際し同条約第九条にいう「警 察」には日本国の消防が含まれると解する旨の立場をとつたことを想起し、経済的、社会的及び文化 的権利に関する国際規約第八条2及び市民的及び政治的権利に関する国際規約第二十二条2にい う「警察の構成員」には日本国の消防職員が含まれると解釈するものであることを宣言する。
 本使は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かつて敬意を表します。
 千九百七十九年六月二十一日
国際連合日本政府代表   
特命全権大使 安倍勲(署名)
 
ホ)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第7条
 
第七条
 この規約の締約国は、すべての者が公正かつ良好な労働条件を享受する権利を有することを認める。この労働条件は、特に次のものを確保する労働条件とする。
 (a)すべての労働者に最小限度次のものを与える報酬
  (i)公正な資金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬。特に、女子につい ては、同一の労働についての同一報酬とともに男子が享受する労働条件に劣らない労働条件 が保障されること。
  (ii)労働者及びその家族のこの規約に適合する相応な生活
 (b)安全かつ健康的な作業条件
 (c)先任及び能力以外のいかなる事由も考慮されることなく、すべての者がその雇用関係においてよ  り高い過当な地位に昇進する均等な機会
 (d)休息、余暇、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇並びに公の休日についての報酬
 
ヘ)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第8条
 
第八条
1 この規約の締約国は、次の権利を確保することを約束する。
 (a)すべての者がその経済的及び社会的利益を増進し及び保護するため、労働組合を結成し及び  当該労働組合の規則にのみ従うことを条件として自ら選択する労働組合に加入する権利。この権  利の行使については、法律で定める制限であつて国の安全若しくは公の秩序のため又は他の者  の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することが  できない。
 (b)労働組合が国内の連合又は総連合を設立する権利及びこれらの連合又は総連合が国際的な労  働組合団体を結成し又はこれに加入する権利
 (c)労働組合が、法律で定める制限であつて国の安全若しくは公の秩序のため又は他の者の権利及  び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も受けることなく、自由  に活動する権利
 (d)同盟罷業をする権利。ただし、この権利は、各国の法律に従つて行使されることを条件とする。
2 この条の規定は、軍隊若しくは警察の構成員又は公務員による1の権利の行使について合法的な 制限を課することを妨げるものではない。
3 この条のいかなる規定も、結社の自由及び団結権の保護に関する千九百四十八年の国際労働機 関の条約の締約国が、同条約に規定する保障を阻害するような立法措置を講ずること又は同条約に 規定する保障を阻害するような方法により法律を適用することを許すものではない。
 
ト)「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」(国際人権規約A規約、社会権規約)第13条
 
第十三条
1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成 及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化 すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加す ること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること 並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。
2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
 (a)初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。
 (b)種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、  特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会  が与えられるものとすること。
 (c)高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、  すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
 (d)基礎教育は、初等教育を受けなかつた者又はその全課程を修了しなかつた者のため、できる限り  奨励され又は強化されること。
 (e)すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教  育職員の物質的条件を不断に改善すること。
3 この規約の締約国は、父母及び場合により法定保護者が、公の機関によつて設置される学校以外 の学校であつて国によつて定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児 童のために選択する自由並びに自己の信念に従つて児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自 由を有することを尊重することを約束する。
4 この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解し てはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行なわれる 教育が国によつて定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
 
チ)経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会からの質問事項に対する日本政府回答
                            (外務省仮訳)(2001年)
 
T.社会権規約が実施されている一般的枠組み
問2.社会権規約の第7条(d)、第13条2(b)及び第13条2(c)への留保を維持する必要性について説 明して下さい。これらの留保を撤回するために日本が計画しているタイムスケジュールを提供して下さ い。

2.第13条2(b)及び(c)への留保
(1) 我が国においては、義務教育終了後の後期中等教育及び高等教育に係る経費について、非進学 者との負担の公平の見地から、当該教育を受ける学生等に対して適正な負担を求めるという方針をと っている。
 また、高等教育(大学)において私立学校の占める割合の大きいこともあり、高等教育の無償化の方 針を採ることは、困難である。
 なお、後期中等教育及び高等教育に係る機会均等の実現については、経済的な理由により修学困 難な者に対する奨学金制度、授業料減免措置等の充実を通じて推進している。
(2) したがって、我が国は、社会権規約第13条2(b)及び(c)の規定の適用にあたり、これらの規定に いう「特に、無償教育の漸進的な導入により」に拘束されない権利を留保している。
 
リ)社会権規約委員会の「最終見解」(2001年8月30日採択、外務省仮訳)
 
C.主な懸念される問題
10.委員会は、締約国の規約第7条(d)、第8条2項、第13条2項(b)及び(c)への留保に関し、委員会 が受け取った情報によれば、それらの権利の完全な実現はまだ保障されていないことが示されている 一方、締約国が前述の条項で保障された権利をかなりの程度実現しているという理由に基づいて、留 保を撤回する意図がないことに特に懸念を表明する。
  (外務省注:第8 条について留保しているのは、第2 項ではなく第1 項(d)である。)
E.提言及び勧告
34.委員会は、締約国に対し、規約第7条(d)、第8条2項、並びに第13条2項(b)及び(c)への留保の 撤回を検討することを要求する。
62.委員会は、締約国に対し、社会の全ての層に最終見解を広く配布し、それらの実施のためにとった すべての措置について委員会に報告することを勧告する。また、委員会は、締約国に対し、第3回報 告作成準備の早い段階において、NGO 及び他の市民社会の構成員と協議することを勧奨する。
63.最後に、委員会は、締約国に対し、第3回報告を2006年6月30日までに提出し、その報告の中  に、この最終見解に含まれている勧告を実施するためにとった手段についての、詳細な情報を含める ことを要請する。
  (注1:訳文中の「締約国」は、日本を示す)
  (注2:段落冒頭の番号は、「最終見解」全文通しの段落番号。63が最終段落)
 
ヌ)子どもの権利条約(1989年)第28条
 
第28条 (教育への権利)
1 締約国は、子どもの教育への権利を認め、かつ、漸進的におよび平等な機会に基づいてこの権利 を達成するために、とくに次のことをする。
 a.初等教育を義務的なものとし、かつすべての者に対して無償とすること。
 b.一般教育および職業教育を含む種々の形態の中等教育の発展を奨励し、すべての子どもが利用  可能でありかつアクセスできるようにし、ならびに、無償教育の導入および必要な場合には財政的  援助の提供などの適当な措置をとること。
 c.高等教育を、すべての適当な方法により、能力に基づいてすべての者がアクセスできるものとする  こと。
 d.教育上および職業上の情報ならびに指導を、すべての子どもが利用可能でありかつアクセスでき  るものとすること。
 e.学校への定期的な出席および中途退学率の減少を奨励するための措置をとること。
2 締約国は、学校懲戒が子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつこの条約に従って行われること を確保するためにあらゆる適当な措置をとる。
3 締約国は、とくに、世界中の無知および非職字の根絶に貢献するために、かつ科学的および技術 的知識ならびに最新の教育方法へのアクセスを助長するために、教育に関する問題について国際協 力を促進しかつ奨励する。この点については、発展途上国のニーズに特別の考慮を払う
 
ル)憲法(1947年3)第14条第26条
 
第14条(法の下の平等)
 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第26条(教育を受ける権利) 
1.すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2.すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負  う。義務教育は、これを無償とする。
 
ヲ)教育基本法(1947年)第1条第3条第6条第10条
 
第1条(教育の目的)
 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない。
第3条(教育の機会均等)
 すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
第6条(学校教育)
1.法律に定める学校は、公の性質をもつものであって、国又は地方公共団体の外法律に定める法人の みが、これを設置することができる。
2.法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努 めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が期されなければな らない。
第10条(教育行政)
1.教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行なわれるべきものであ る。
2.教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行 なわれなければならない。
 
ワ)私立学校法(1949年)
 
第1条(目的)
 この法律は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって私立学校の健全な発展を図ることを目的とする。
第59条(助成)
 国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、学校に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。
 
カ)私立学校振興助成法(1975年)
 
第1条(目的)
 この法律は学校教育における私立学校の果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体が行なう私立学校に対する助成の措置について規定することにより、私立学校の教育条件の維持及び向上並びに私立学校に在学する児童、生徒、学生又は幼児に係る修学上の経済的負担の軽減を図るとともに私立学校の経営の健全性を高め、もって私立学校の健全な発達に資することを目的とする。
第3条(学校法人の責務)
 学校法人は、この法律の目的にかんがみ、自主的にその財政基盤の強化を図り、その設置する学校に在学する児童、生徒、学生又は幼児に係る修学上の経済的負担の適正化を図るとともに、当該学校の教育水準の向上に努めなければならない。
第4条(私立大学等の経常的経費についての補助)
 国は、大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対し,当該学校における教育又は研究に係る経常的経費について、その2分の1以内を補助することができる。
第9条(学校法人に対する都道府県の補助に対する国の補助)
 都道府県がその区域内にある小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校、養護学校又は幼稚園を設置する学校法人に対し、当該学校における教育に係る経常的経費について補助する場合には、国は、都道府県に対し、政令で定めるところにより、その一部を補助することができる。
 
ヨ)学習権宣言(1985.3.パリ)
 
(第4回ユネスコ国際成人教育宣言)
 学習権の承認は、いまや、これまで以上に、人類にとって、重要な課題となっている。
 
 学習権とは、
 読み書きの権利であり、
 質問し、熟慮する権利であり、
 想像し、つくり出す権利であり、
 自分自身の世界を読みとり、歴史を作る権利であり、
 教育の機会に接する権利であり、
 個人的・集団的技能をのばす権利である。
 
 成人教育パリ会議は、この権利の重要性を再確認する。
 学習権は、未来のある日のために予約された文化的ぜいたく品ではない。それは基礎的欲求がみたされたあとに与えられる、第二段階のものではない。
 学習権は、人が生きのびるに不可欠な道具である。
 世界のひとびとは、もし食糧生産と、その他の人間的欲求のみたされることをのぞむならば、学習権を持たねばならない。
 女性と男性が、よりよい健康を享受するためには、彼らは、学習権を持たねばならない。
 もしわれわれが戦争をさけようするなら、平和に生きることを学び、おたがいに理解しあわねばならない。「学習」はキーワードである。
 学習権なしに、何人も成長することはできない。
 学習権なしに、農業と工業の躍進も、地域保健も、そして実際、学習条件の変化もないであろう。
 この権利なしには、都市や農村ではたらく人たちの生活水準の改善もないであろう。
 すなわち、学習権は、現在の人類にとって深刻な問題を解決するのに、もっとも貢献できるもののひとつなのである。
 しかし、学習権は、単なる経済発展の手段ではない。それは基本的権利のひとつとして、認められなければならない。学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置付けられ、ひとびとをなすがままに動かされる客体から、自分の歴史を作り出す主体にかえていくものである。
 それはひとつの基本的人権のであり、その合法性は万人に共通している。学習権は人類の一部のものに限定されてはならない。それは、男性や工業国や有産階級や学校教育を受けられる幸福な若者たちの排他的特権であってはならない。(後略)       
                            以上  
 
                            


大阪府の新たな「私立高校教育振興」策は

私学をどこへ導くか

 ――「『21世紀の私立高等学校教育振興のあり方懇談会』提言」批判

2000年10月 

大私教小中高校部執行委員会





一、『提言』の特異な性格



1.政府・財界の新自由主義的「教育改革」に私立高等学校を従属させる宣言



 「……東の東京の対抗軸として西の大阪が、その伝統や文化を生かしつつ活力を回復することが、わが国のバランスある発展のために必要であり、それにふさわしい教育のあり方を考えなくてはならない。本懇談会は、こうした観点に立って、今後の大阪府の私立高等学校のあり方について提言することを課題として与えられた……」  

 「21世紀の私立高等学校教育振興のあり方懇談会」(以下「懇談会」、注1)は、さる9月19日、「懇談会」の審議のまとめを『「21世紀の私立高等学校教育振興のあり方懇談会」提言』(以下『提言』)として太田知事に提出しましたが、「懇談会」の座長をつとめた新堀道也氏(武庫川女子大学教授)は、その「巻頭言」で、このように述べています。

 『提言』はその課題をどのように具体化したか。その内容の特徴は、おおよそ次の通りです。

@安上がりの私学教育による公立高校の統廃合と公立教育費削減の促進

A私学助成「再構築」と称する選別的私学助成(機関補助)制度への移行

B「公私格差是正」の名による「機会均等原則」の空洞化と「受益者負担」の徹底、公私の競争条件の整備。公立高校授業料値上げと父母負担増、私立高校生授業料補助の「救貧化」の強化

C私立高校教育のいっそうの「多様化」促進。普通科「偏重」を改め専門学科や「総合学科」を。そのための「実学の伝統」「建学の精神の見直し」、一方では「宗教教育」による「心の教育」奨励。選別の論理としての「特色・魅力」「創造性」「多様化」など財界・自民党「教育改革」の私学への持ち込み・押し付け

D私学経営のいっそうの「合理化」、人事考課査定の導入によるリストラ促進と教職員の能力主義的管理の新たな強化

E「市場原理・競争原理」の徹底による公教育解体、公私立高校の統廃合、スクラップ・アンド・ビルド路線の推進、教育を財政に従属させる「ソロバン合わせの学校つぶし」

 この『提言』の立場は、きわめて特異です。

 第1に、新「総合計画」や「大阪産業再生プログラム(案)」などで、太田知事は少子化と大阪府財政の破綻状況を口実に、関西財界の意向を全面的に踏まえつつ、「大阪の活力の回復」を最大の政治目標とし、その行政目標に私立高校教育そのものを従属させることをあからさまに宣言してはばかりません。ちなみに、新「総合計画」では「……少子化の進行による児童生徒数の減少により、私立学校をとりまく環境は年々厳しくなってきており、各学校はより一層自らの創意工夫と自助努力により、教育水準の維持向上をはかる必要があります」とし、「大阪産業再生プログラム(案)」では「……本府では、生きる力を育む就業体験や情報教育及びITを活用した教育のための施設・設備の整備等、私立学校における特色・魅力ある教育の取り組みが推進されるよう支援していく」と明言しているのです。太田知事のこのような立場が、「不当な支配」を禁じた教育基本法そのものに抵触することは極めて明白ですが、『提言』「巻頭言」は、その応援団であることを自ら示している点です。

 第2に、このことと関わりますが、『提言』は、社会病理化する教育荒廃の広がりや私立高等学校の現場の苦しみについて、一顧だにしません。

 「17歳の暴走」、登校拒否・中途退学など、児童・生徒の人間的成長の歪み、「学びからの逃走」(佐藤学氏)・「授業不成立」等、顕著な学習離れなど新たな教育荒廃の広がりの克服は、国民的課題となっています。

 私学の現場では、大阪府の貧困な私学助成政策を背景に、専任教諭の採用手控えと不補充など経営者の総額人件費抑制路線のもとで、他産業労働者はもちろん、公立教職員に比しても突出した在職死亡率に象徴される深刻な健康破壊に見舞われながら、悪戦苦闘する教職員、家族総働きはもちろん、「父親はリストラ、子どもはフリーター」と言われる雇用破壊にさらされる父母、生徒の状況などについて、『提言』はまったく無視してかかるのです。不登校や中途退学問題も、『提言』にかかれば、教育問題ではなく、「計画進学率」引き上げの「障害」要素として触れられているにすぎません。このような教育論議をまったく欠落、回避した『提言』の立場の特異さは、「教育改革プログラム(案)」と比較してさえも際立つものです(注2)。

 そして第3に、「私立高校教育振興」と言いながら、公立高校教育のあり方にまで言及せざるを得なかったことです。このことは、公私のサバイバル競争の組織化と、その促進の担い手としての私立高校教育「振興」策を確立する、という太田府政・『提言』の本質的なねらいから生まれています。



2.全国初めての新自由主義によるラジカルな私学「振興」策の宣言



  新自由主義的教育「改革」は、よく知られているように「市場原理・競争原理」を至上の原理とし、教育への公費支出の削減と教育・学校の商品化、財界の「21世紀戦略」を担う新たな労働力の創出をはかる教育の変質を通して公教育の縮小・解体を大学から幼稚園に至るまで、まさに「川上から川下」まで貫き強行しようとするものす。それは中教審路線と財界・自民党「教育改革」を支える重要な政策的柱となっています(注3)。

  このような「改革」路線のもとで、私学助成について新自由主義者が、こぞって現行の経常費補助を「非効率的」「護送船団方式を助長する」などとして排除し、「効率的・重点配分」方式と奨学金制度への転換を主張していることは重大です(注4)。

  『提言』は、「私学助成の再構築」と称し、経常費助成の「重点配分」、授業料と奨学金のリンクなど、公費支出の削減をはかりつつ、私立高校には、公立、私立とのはてしない競争と「抜本的な経営改革」を要請し、父母・府民には、一層の学費負担を強いつつ、「選択の自由」という名の「選択の不自由」の行使を求めているのです。典型的な新自由主義による私学政策の表明です。

  『提言』自身が明言しているように、国段階ではもちろん、都道府県レべルにおいてもこのような新自由主義による私学「振興」政策を打ち出したのは、大阪府が初めてです(注5)。

  同時に、見落とせない点は、大阪府はすでに昨年「教育改革プログラム(案)」を発表し、公立高校の縮小・解体など新自由主義的教育「改革」を具体的に推進していますが、『提言』が、私学をその一翼に組み込み、むしろその推進力、先兵として活用をはかろうとしていることです。

  『提言』の反動性は各県私教連に大きな衝撃を与えています。同時に、私学の担当部局にも波紋を広げています。東京都学事部は、「これはひどい。教育行政の逸脱だ。反動的内容だ」としているのです。

 

3.自民党府政の一貫した私学政策の帰結



  『提言』のこのような特異な性格は、突然生まれたものではありません。自民党政治に支配されつづけてきた大阪府の一貫した私学助成政策の帰結としてとらえる必要があります(注6)。

 とりわけ、今日の大阪府私学政策の土台を築き、『提言』への出口を準備したのが、岸知事でした。その私学政策は、1983年8月、大阪府私立高校教育振興方策懇談会(座長・玉田義美、大阪府科学技術センター常務理事)の『明日の私立高校教育への提言――激動期を克服し、21世紀への発展をめざす』(以下『明日への提言』)に集約的に示されています。

 この『明日への提言』は、生徒急増期における中曽根臨調・行革路線の全国初の具体的な私学政策版という性格をもつものでした。今日の『提言』は、全国初めての新自由主義による私学政策版、と言いましたが、「急増期」「急減期」の違いこそあれ、共通した行政姿勢に立っており、全国には例のない特異な姿勢です。なぜ大阪から生まれるのか。その最大の理由は、大阪府政が、一貫して自民党政治に支配され、「まるで自民党内閣の大阪出張所」と称されてきたように、中央政治に全面的に盲従する行政姿勢をとってきたことにあります。このことは、「私学振興議員懇談会」に見られるように、全国どこよりも早く日本共産党を排除した「オール与党体制」による議会支配を作り出したことと密接に関わっています。

 『明日への提言』以降、各私立高校経営者は、急減期の恫喝に屈し、「増加する生徒の20%」の受け入れと、特進・国際化等「多様化・特色化」の「魅力ある私立高校教育づくり」へ全面展開するところとなりました(注7)。



3.「三人四脚」の合作



 『提言』の委員、特別委員には、私立高校教職員の代表が一人もいま

せん(注8)。『明日への提言』特別委員には、大私教井上明、「大阪私学

助成をすすめる会」保田芳昭、大教組小西康英の各氏が、21名の特別委

員の中に入っていました(各氏はそれぞれの立場から府民の教育要求に

立って奮闘しましたが、それらの主張はほとんど骨抜きにされましたが)。今回の「懇談会」では、当初大私教代表にも特別委員の要請が私学課からありましたが、「懇談会の審議の流れにそぐわない」という理由で、排除されたのです。このことと、既に触れた『提言』の特異な立場とはもちろん深く関わっています。

 「懇談会」委員の構成は、一見してもその偏向ぶりが鮮明です。大私教はもちろん、大阪労連や「大阪私学助成をすすめる会」も排除され、その一方で、関西財界、「連合」、新自由主義のオピニオン・リーダー、そして、私学関係者からは大阪私立中学校高等学校連合会前・現会長、保護者会連合会代表が名前を連ねています。

 後に見るように、釜谷・野田両氏はむしろ『提言』路線を積極推進す

る役割を客観的に担うこととなったことを踏まえると、『提言』は、現場

教職員を排除し、行政と「有識者」、そして私学経営者代表の「三人四脚」

による合作、と見るべきでしょう。



二、『提言』は私立高校をどこへ導くか



 『提言』は、少子化と大阪府財政の「悪化」を、新自由主義的教育「改革」の最大のモメントとしています。「公費を気前よく投入できる時代は終わった」とし、公立教育費・私学助成の削減を当然視しつつ、私立高校には、公立や他の私立に負けない「魅力ある教育づくり」と「抜本的な経営改革」を強く要請するのです。また、「選択の自由」を謳い文句に、公立・私立の各学校間に、果てしない生徒獲得競争を組織しようとしています。さらに、「産業界との連携」等、財界の労働力政策の枠組みに私立高校をとりこむねらいまで、隠そうとしていません。

 このような『提言』路線が、「定員を充足しない高校は、その存立基盤を失わざるを得ない」と断言するように、府民の選択を得られない公立高校の統廃合、私立高校の「自然淘汰」をその帰着点とすることは、誰の目にも明らかです。一握りの「勝ち組」と圧倒的多数の「負け組」を作り出すと同時に、公教育そのものを変質させ、私立高校の自主性への介入、公共性の剥奪を伴って進行することとなります。

 「産官学」共同による公教育解体・縮小路線の先兵に私立高校が立たされようとしているのです。株式会社「杵屋」からの出向という、前代未聞の雇用流動化政策で紛糾している初芝問題は、まさに典型といえるでしょう(注9)。

 このような新自由主義的教育「改革」を推進する上で、憲法・教育基本法等現行法体系は、最大の障害となり、『提言』は、その「規制緩和」をどのような形で具体化し、その壁を突破しようとしているのか、次に見てみることとします。



1.教育行政の法的責務の否定と変質

(1) 競争環境の整備と選択の自由の保障

 『提言』は、「行政はより魅力ある私立高校の振興発展を支援するための条件整備に努める必要がある」とし、その基本方向を次の2点としています。「私立高校の自主的・自発的な改革を促し、公立私立を含めた各学校が互いに競い合いながら、特色と魅力あふれるより良い教育をできる環境を整えること」「公立私立の別に関わらず、府民が興味、関心、希望や能力、適性に応じて高校教育を主体的かつ自由に選択できる仕組みや制度を整えること」。つまり、公立私立の競争環境を整備すること、選択の自由を保障する仕組みと制度を整えることを教育行政の目的とするのです。

 教育行政の法的責務は、教育基本法第10条に明確に規定されています。同条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行なわれるべきである。



2.教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行なわれなければならない」と命じているのです。ここでいう「教育の目的」とは、憲法・教育基本法や、学校教育法で規定された教育であることは言うまでもありません。

 『提言』は、このような教育基本法の命じる教育行政の責務をまったく無視、ないしは否定する態度を明らかにしているのです。

(2) 高校教育の「直接提供」と「購入者」の視点

 『提言』は、私立高校を活用し、教育行政の任務・役割を変質させようとしています。そのことは「総合的な教育行政の推進」の項にあらわに示されています。

 「生徒一人当たりの公費負担額は私立高校が公立高校の約半額となっている。こうしたことから、役割分担を議論する際には、公私立高校に投じられている教育費をトータルでとらえ、高校教育を直接提供する視

点だけではなく、税金を使って教育サービスをより良く購入するという視点をあわせ持つことことが必要である」と主張します。

 要するに、『提言』は、高くつく公立高校より安上がりの私学の活用を行政に求めているのです(注10)。このことは、「私立高校により多くの生徒を任せる」という『提言』主張につながっていきます。

 教育条件整備という教育行政の法的責務を「魅力ある私立高校の振興発展を支援する条件整備」に変質させ、「教育の機会均等」を、「購入者の視点」の強調により、否定するこのような『提言』の姿勢は、まさに憲法・教育基本法に対する『提言』流「規制緩和」の手法と言わねばなりません。



2.『提言』は、どのような具体策を行政に求めているか。

「魅力ある私立高校の振興発展を支援するための条件整備」を行政に求める『提言』は、三点にわたって、その具体化を指し示しています。

(1) 全日制高校計画進学率の引き上げ、拒否

 『提言』は、「生徒減少により、施設面などで高校に生徒受け入れ余力が生じている」こと、全日制高校進学希望が「約94%」で、92.3%とする計画進学率を上回っていることを認めながら、しかし、計画進学率引き上げを主張しません。その理由に、中学校における不登校、高校での中途退学の増加をあげています。これがどうして計画進学率を引き上げることを躊躇させる要因となるのでしょう。もし仮に、中学における不登校が、「進学希望率」を減少させ、高校の中途退学の増加も、せっかく計画進学率を引き上げても、どうせ途中でやめてしまのだから、というふうに考慮したとしたら、これは、父母府民の高校進学要求を踏みにじることで、その学習権・教育権を侵害するものであり、到底容認することはできません。「その募集定員では、教室が足りない」と批判する現場教職員に対し、「1年から2年へ進級する段階で2クラス分ぐらいの中途退学が出る」と、うそぶいた私立高校経営者がいますが、どこが違うのでしょうか。第10回審議会で、「連合」事務局長が、「中途退学、不登校は、計画進学率引き上げとは別個の問題」とし、計画進学率の引き上げを主張しましたが、けだし当然のことです。それに対し、後に見るように、野田氏は、計画進学率の引き上げに頑強に反対したのです。

 (2) 公私の受け入れ比率の弾力化

 「競争原理・市場原理」を至上とする新自由主義「改革」にとって、「公私収容比率」は規制緩和の重要なターゲットです。

現行の公私収容比率は、公立私立の「適度の競争関係」、「府民の自由な進路選択」の上で問題がある、と『提言』は指摘します。そして、「可能な限り公私間の保護者負担格差の是正という条件整備を行なった上で、弾力的な受け入れを可能とする方法への変更を検討する必要がある」と主張するのです。

 要するに、公立の学費を段階的に引き上げ、公私の保護者負担格差を「是正」しつつ、その程度に応じて「公私シェアー」を「弾力的」に見直す、とするのです。

 しかし、『提言』は、私々間格差についてはまったく黙殺しています。千里国際高校の100万を超える学費から、金剛学園高校の41万円まで、極端な学費格差が存在します。教育条件についても、例えば1学級当たりの平均生徒数を見ると、大阪桐蔭高校の51.5人から建国高校の16.5人の懸隔があります(いずれも『資料からみた大阪の私学』、平成12年3月、大阪府私立中学校高等学校連合会)。

 このような格差は、93私立高校においても「適度の競争関係」を保つこと、「府民の自由な進路選択」を保障することが重要と認識するなら、当然、大問題となるはずです。しかし、『提言』はまったく無視してかかっています。このことは、「競争条件」「競争環境」の整備を「私々間」においてはすすめるつもりがまったくないこと、すなわち私立高校については無防備のままサバイバルの世界に投げ出し、「生き残り」はもっぱら各私立高校の「経営努力」に待つことの態度表明と見ることができます。値上げできる学園とできない学園、場合によれば値下げしなければならない学園の二極分化がすすみ、私々間における学費(教育条件)格差は一層拡大することとなります。

 しかし、仮に『提言』流に93私立高校の「競争条件」「競争環境」を整えようとしても、その方向は安い学費を引き上げ、「私々間の保護者負担格差是正」ということにならざるを得ないことは明らかです。

 いずれにしても、後に見るように、私立高校はもちろん、公立高校学費についても父母負担は限界に達していることから、このような一層の父母負担を強いる「公私格差是正」論は、「選択の自由」の「条件整備」となるどころか、「選択の不自由」を一層拡大し、「弾力化」に対する新たな府民的反撃を呼び起こすのではないでしょうか。

 国民的立場に立った私々間格差是正は、大私教統一闘争と労働者・父母・府民の共同闘争に待つ以外ありません。



(3)「教育の機会均等」のすり替えと「選択の不自由」

 「所得階層に関わらない教育の機会均等を保障し、府民の自由な高校選択が可能となる条件を整備するための重要な課題は、公私間の保護者負担格差の問題である」。

 ここには重大な二つの問題が潜んでいます。

 第1は、「教育の機会均等」の「保障」を、「公私間の保護者負担格差」という公私の「競争条件」の「整備」にすり替えていることです。大阪の公立高校生の「授業料減免」制度適用者は、47都道府県中、群を抜いた多さです。大阪私立高校生の学費滞納率、経済的理由による中途退学率も際立つ高さです。これらの事態は、私立高校学費の高さは言うまでもなく、公立高校を含め、学費そのものが、「府民の経済状態の厳しさ」から耐えがたい高水準にあることを示しています。「所得階層に関わらな

い教育の機会均等を保障」するためには学費負担そのものをなくさなければなりません。少なくとも抜本的な負担軽減をはかることが「重要な課題」です。  

 第2は、このことと関わって、『提言』の主張する「保護者負担格差是正」論は、「府民の自由な高校選択が可能となる条件を整備」することにはならない点です。

 それは、『提言』が、学費の父母負担の軽減という視点をまったく持ち合わせていないからです。しかも私々間の学費格差の是正については口を閉ざしています。こうなれば、公立・私立の学費の動向は誰でも予測可能となるでしょう。つまり、公立高校学費は劇的に上昇、私立高校学費についても値上げは避けがたいこととなります。「厳しい状態」におかれている圧倒的多数の府民にとって、学費負担の一層の拡大は、そのまま「選択の不自由」の拡大を意味します。これらのもとで、『提言』の言う「選択の自由」を行使できるのは、限られた階層となるのではないでしょうか。

 教育基本法第3条(教育の機会均等)は、差別性を禁止する事項として、憲法第14条(法の下の平等)の命じる「禁止事項」に「経済的地位」を付加しています。このことについて、成嶋隆教授(新潟大学)は、要旨次の通り述べています。

 教育基本法における「教育の機会均等」原則は「教育を受ける権利の平等保障を『機会均等』(equality of chance)として定式化した」ものであること、「経済的地位」を付加したのは、しかし「社会の現実において、経済的不平等が機会均等という形式的平等の実現を阻む」こと、「実質的な不平等が、形式的平等の基礎を掘り崩すこと」を回避するため、と主張しているのです(『教育基本法歴史と研究、新日本出版』)。

 『提言』のすり替えは極めて明白です。

 強者のみが行使できる「選択の自由」の主張こそ、まさに新自由主義の真骨頂です。公立高校の統廃合は加速するでしょう。自然淘汰される私立高校も激増することとなるでしょう。公教育の縮小・解体は、劇的に進行します。

(4)「私学助成の再構築」と言う名の私学助成削減

 さらに『提言』は、「公私間の保護者負担格差の是正」として、「授業料軽減助成と奨学金を組み合わせてより総合的な体系とする」こと、「特に、経済的に困難な状況にある府民に対しては、…保護者負担格差が限りなく解消されるよう何らかの方策を検討することが必要」としていま

す。これらの方策それ自体は、すでに岸知事時代に主張されてきたところであり、目新しさはありませんが、一層極端な形で実行される危険性が高いことを踏まえる必要があります。とりわけ、奨学金とのリンクは、授業料補助削減・全廃に道を開くものとして、座視することはできません。

 経常費助成について、『提言』は「限られた財源を一層効率的に使」うことを基本姿勢とし、「再構築」の内容を次のように示します。「現行の助成の課題」は、「私立高校を総体として振興するような助成配分になっていること」「教育改革、特色・魅力づくりを支援するための助成が必ず

しも十分でない」点にあること、従って、「助成の重点化」として、「私立高校の自主的な取り組みを促し、先進的な教育や特色ある教育の実現を重点的に支援する助成の仕組み」に「再構築」するとしているのです。

 すなわち、経常費助成についても拡充どころか、削減の道を用意しつつ、さしあたり「助成の重点化」と称し、私立高校教育への支配・介入を図ろうとするものです。  

 このような路線が、圧倒的多数の私学を自然淘汰の道に追いやり、勝ち抜いた一部私立高校による寡占が進行することを『提言』自身は予見しているようです。「私立高校自らが再編統合などに取り組む場合に、財政的な面を含めて何らかの支援を行なうことも検討」するという『提言』

の主張が、その何よりの証左でしょう。

 

3.私立高校教育・経営への支配・介入

(1)恣意的な公私役割分担論

 『提言』は、「府民アンケート」を根拠に、公立・私立の役割分担論を展開しています。しかし、「府民アンケート」の評価は、きわめて意図的・作為的といわねばなりません。

 「どちらともいえない」という回答が、総じて40%前後に達する高率であることを『提言』が一顧だにしていないのは、きわめて不自然だからです。「生徒指導に力点を置いた教育」「学業不振の生徒に対する教育」「すべての生徒に対する教育機会の保障」「進学のための教育」「基礎学力の向上」等の設問に対し、「どちらともいえない」との回答がそれですが、このことは何を意味するのか。府民は、これらを公立・私立という設置者の別なく公教育機関の目指すべき当然の教育目標と判断しているからに他なりません。教育の条理は、言うまでもなく、公立・私立の別なく貫くからです。それを無理やりに、「公立・私立の役割分担」というふるいわけをする設問者の独善が、このような「回答結果」をもたらし、その真意から目をそむけさせた、と見るべきでしょう。

(2)恫喝と私学助成政策を媒介とした私立高校教育への介入

 私立高校の多様化・特色化戦略が、岸知事の「民間活力」論による私学政策の帰結であることについては、すでに触れた通りです。

 『提言』は、さらに露骨に、私立高校を恫喝しつつ、多様化・特色化を煽っています。「公立高校も……近年の教育改革推進の流れのなかで、急速に特色・魅力づくりの取り組みを進めている。こうした状況の下、私立高校は、今後一層、その自由度と独自性を活かし、公立高校を上回る多様な魅力づくりを進めていくべきである」と主張します。『提言』の期待する「公立高校を上回る多様な魅力づくり」とは、大阪府「教育改革プログラム(案)」が公立の「教育改革」について示している方向、すなわち、「普通科」偏重を改め、「総合学科」や「専門学科」など「多様化」することにあります。「進学教育」の追認や、「建学の精神にもとづく宗教教育を生かした『心の教育』や人権教育」のすすめなど、スーパーエリートづくりと、「従順で順応性溢れる」労働者の育成をはかる政府・財界の労働力政策に私立高校教育を従属させようとするものである点に注意を払う必要があります。

 そして、すでに見た「私学助成の再構築」を媒介に、私立高校に「自主的、主体的な改革」として、「府民のニーズに合わせて学校を改革していく不断の努力を重ね、他校にない特色・魅力を築いていくこと」を「強く」求めているのです。あからさまな私立高校教育への介入ではありませんか。

(3)私学経営への介入

 それのみならず、『提言』は、私学経営、労使関係にまで土足で踏み込んできます。「求められる私立高校改革」の第2項「抜本的な経営改革」の中で、次のように主張するのです。

 「……これまでのような経営を続けるならば、高校として必要とされ

る教育条件の維持はもとより、経営そのものが成り立たなくなる恐れすらある」とし、「従来からの雇用・給与体系の見直し」や「自己評価制度の導入」、「教職員の資質向上や活性化につながる研修」等を列挙して見せるのです(注11)。

 『提言』のこの主張は、私経協の定昇縮減や、一時金削減、履正社等で採用されている大量の期限付き雇用と専任教諭不採用・不補充など雇用の流動化、総額人件費抑制攻撃に根拠を与えるのみならず、さらなる拡大を奨励する危険性を高めるものとして、到底軽視することはできません。

 労働組合の頭越しに、このような「抜本的な経営改革」を要請する『提言』の立場は、私立学校法の命ずる私学(経営)=学校法人の「自主性」と「公共性」への行政の重大な侵犯と言わねばなりません。言い方をかえれば、大阪府の事実上の「背景資本」による「合理化」宣言とも解されます。大阪府と知事は、われわれとの団体交渉に応じる義務を果たすとでも言うのでしょうか。

(4)「情報公開と説明責任」の主張

 『提言』は、私立高校に「情報公開と説明責任」を求めています。

 確かに、「理事報酬」を含む経理と財政の公開を「私立高校に対する公的助成への府民の理解を得るとともに、広く公共性を持つ機関として私立高校が果たすべき責任」と断じた点は、私たちのこれまでの運動の反映であり、積極的意義を有するものです。しかし、『提言』の求める「情報公開」が基本的に行政と財界のためのものであることを見落とすわけにはいきません。学校と教職員の「自己評価」「人事考課」も、その対象となっていると見るべきです。その一方で、民主的な学校評議員制度など父母や生徒の「学校参加」、理事会や職員会議の議事録の公開など「開かれた私学」をめざす「情報公開」などは、彼らの思惑の埒外です。



4.大阪私立中学校高等学校連合会野田前会長、釜谷現会長の果たした役割

 先に、『提言』は、行政、「有識者」、中高連一部幹部による合作、と指摘しました。私中高連幹部のかれらは、どのような役割を演じたのか。

 「懇談会」の目指す新自由主義的私学「政策」の防波堤としての役割はおろか、むしろ、その推進に道を開く結果となっていることを指摘せざるを得ません。審議会における彼らの発言がそのことを示しています(注12)。

(1) 釜谷氏の公私間の競争環境の整備と奨学金等の活用  

 特別委員として意見表明した釜谷氏は、「全体の中で競争したい」とし、そのもとで「淘汰されていくものは淘汰されていく」「競争の結果、ある私学がなくなっていくのは、やむを得ない。社会的な使命がなくなっているのだから」と言い切りました。

 さらに釜谷氏は、「財政難ということになれば、一定所得で順応していける人はある程度負担してもらう」、「学費格差は1:1.5くらいが適当」とし、「お金がないというのならば、例えば奨学金などを使いながら」とする「格差是正」論を展開しました。

 すでに見てきた『提言』路線を踏まえ、釜谷氏の発言の持つ問題点は次のように整理できます。

 第1は、公私間の競争をそそのかしたこと、その下で、私学も「つぶれても仕方がない」と言い切ったことは、重大です。少なくとも「私立高校教育振興のあり方」と銘打った懇談会の席上、業界の最高責任者自らが、これまでの「私学は一つ、一校もつぶさない」という業界の団結のスローガンを投げ捨て、競争原理の貫徹を主張したのです。この釜谷発言に対し、野田前会長は、さすがに「私々間で競争をするということは頭の中に全然なかった。つぶれそうな私学があれば、それを何とか助けてやっていくということが団体の任務と考えてきた」と異論を唱えましたが、釜谷発言の重大性に触発されたものと言えるでしょう。某学園の団体交渉での、「釜谷さんみたいに何でも規制緩和、言われたらたまりませんわ。釜谷さんとこはよろしいがな。しかし、私のとこみたいな弱者は、それではもちません」という経営者の慨嘆も、釜谷発言の波紋の広がりを示すものです。

 第2は、釜谷氏の「公私格差是正」論がそのまま『提言』に生かされている点です。かねてから釜谷氏は、公私間の保護者負担格差について、「私立高校父母は税金の二重払い」を強制され、このことは「教育の機会均等に反する」と主張してきました(「私学ジャーナル」2000年4月号)。しかし、耐えがたい父母負担の現状を固定し、私々間の学費格差については不問に付しながらの「公私格差1:1.5」論は、「税金の二重払い」を今度は公立父母にも求めることとなります。

 このことは、釜谷氏の教育に対する無知、「機会均等」とは無縁の「学校屋的」発想から生み出されたものと言うべきです。公立だけではなく私学も含めた父母・府民を敵に回すような人物が、大阪私中高連の会長に就任したことは、まさに大阪私学の不幸と言わねばなりません。

 第3に、釜谷氏は、大阪府財政の破綻を前提に、「一定所得で順応できる父母」の自己負担と奨学金の活用を主張し、『提言』の「私学助成の再構築」を容認したことです。すでに見てきたように、これらの主張は、釜谷氏のオリジナルではありません。岸知事時代以来の大阪府の私学助成政策や最近の自民党「教育改革」そのものです。「政権党と手を結ぶ」ことを公然と唱えてきた釜谷氏は、大阪私中高連の会長として、未曾有の危機にある私学を政権党の手に委ねようというのでしょうか。

 

(2)「抜本的な経営改革」と「理事報酬の公開」を主張した野田氏

 『提言』の起草の最終段階で、「抜本的な経営改革」が挿入されましたが、それに道を開いたのが野田氏の発言でした。『提言』は、それを渡りに舟として、既に見たように、「雇用と賃金の見直し」をはじめ、「自己評価制度」や「研修制度」にまで踏み込んだのです。

 また、「計画進学率」を低く置く、という野田氏の発言は、私学エゴの謗りを免れませんが、『提言』の躊躇と歯切れの悪さも、同氏の発言が影響したと見ることができます。

 また、「能力給」の導入は教育職には困難とする野田氏の主張は、一面において積極的意味もちますが、同時に、「公立の給与体系」が「一つの目安」としている点に、注意を払う必要があります。人勧体制の進捗度によって、「能力給」導入もあり得る、ということの表明に他ならないのですから。

 ただ野田氏が、理事報酬の公開まで主張したことは、『提言』の「情報公開と説明責任」の主張と結びついたものとは言え、私学の公共性を高める上で積極的意義をもつものです。



三、どのように『提言』路線を阻止し、「安心と信頼の学園づくり」をすすめるか。



 全国私教連は昨年夏の全私研で、「21世紀私学助成政策」を発表、「公教育は公費でまかない、教育費無償の原則の確立をはかる」基本方向を明らかにしました。20世紀を通して確立されたこの世界の原則をわが国で確立することこそ、憲法・教育基本法の指し示す「教育の機会均等」、国民の教育権保障の方向であることは明らかです。

 『提言』に代表される新自由主義的教育「改革」は歴史の逆流です。その阻止は国民的課題であり、人類進歩の歴史への貢献です。このことをあらためて確認しつつ、『提言』と具体的に切り結ぶ上で、必要な課題について、触れておきたいと思います。

1.「教育の機会均等」と「保護者負担格差是正」論

 『提言』の「保護者負担格差是正」論に「教育の機会均等」原則を対峙させるべきであることは、言うまでもありません。

 私たちが一貫して掲げてきた「公教育は公費で」という立場を堅持し、さしあたり、次の課題からアプローチします。

@学費負担そのものの軽減をはかる。少なくとも公立高校学費を据え置くこと。

A私立高校学費については、年次的に値下げし、低位平準化をはかる。そのため、「値下げ分」について補填する私学助成の仕組みを求める。



2.「公私収容比率」の「弾力化」論

 公私収容比率問題を検討する場合、次の観点が不可欠です。

 第1は、すでに触れたように、学費父母負担の抜本的な軽減が土台に据わらなければなりません。

 その上で、第2に、公立中卒生の全日制普通科への計画進学率を少なくとも、希望者に見合って引き上げることです。このことは、全国私教連「21世紀私学政策」や「日本の教育改革をともに考える会」の示す「希望者全入」・「無選抜入試」への展望を切り拓くものです。

 そして第3に、公立・私立高校が、少子化を絶好の機会として、学級規模・学校規模の適正化をはかり、教育条件の国際水準化をはかる観点から、「収容比率」を策定することが求められます。そもそも、現行の「7:3シェアー」について、私たちは基本的に肯定する評価をしてきましたが、その根拠は、公立・私立高校の「40人学級」試算の結果、「7:3」で不都合がなかったことにその根拠をもっています。その点で、府高教、市高教等とともに学校規模・学級規模の適正化にもとづく「シェアー」論の策定が求められます。

 第4に、とりわけ私立高校に、生徒獲得競争に対する民主的規制力をいかにつくりだし、発揮するかが重要な課題となります。大私教はこれまで、大阪私中高連の「私々間割当」協定について、「急増期の収容増の実績」を基礎数にするなど矛盾をはらみながらも、「生徒減少の波を93私立高校が公正に吸収し、特定の学校だけが生徒減の被害を集中的に受けることを避けるための自主規制」として評価し、各学園の民主的協議によって公正なものにすることを呼びかけてきました。

釜谷氏が、私中高連会長として、果てしなき生徒獲得競争を鼓吹していることから見ても、第3の観点と結びつけ、各私立高校の「割り当て数」をあらためて策定、自主規制を確認し合うことは、きわめて切迫した課題となっています。また、大私教は、「私立高校入試制度の改善について」と題する討議資料を発行、「隣接する私立高校同士の合同入試」を提案したことが、あります(1997年)。このような入試制度のあり方についても具体化が求められます。

3.私学教育の自主性と公共性

(1)あらためて私立高校の多様化・特色化教育の現状について『提言』が、私学教育の自主性を、新自由主義的教育「改革」を率先実行する「自主的・主体的改革」に寄与する方向に限定・誘導していること、私学の公共性を根こそぎ破壊しつつ、私学を公教育縮小・解体路線の先兵に立たそうとしていること、については、これまで見てきた通りです。

 とりわけ、中曽根「臨調」と岸知事の「民間活力論」による私学教育の「特色化・多様化」の劇的な広がり、そのもとで「進学」をウリに、教育産業と見まがうばかりの公教育機関からの逸脱を見せる私立高校の存在を口実に、その意図か貫かれようとしている点に、問題の深刻さと切迫性があります。私学の自主性、公共性があらためて問い直されなければなりません。

(2)私学の進歩的伝統

 国民教育研究所編「国民教育小事典」は、「私学の歴史が明らかにしている進歩の伝統と特質」を次の三点にわたって解説しています。「@学問と教育を広く勤労人民に開放してきたこと、A政府の干渉に対し学問と教育の独立を守ろうとしてきたこと、B独特の学風、独自のすぐれた教育方法の採用、それらによる学問と教育の進歩への貢献…」。 

 この指摘は、「私学を、高い自主性と公共性(私立学校法第1条)を土台にした『教育自治体』に」(『ムダを省き、民主化をすすめ、新しい私学を』、以下『ムダを省き』1996年9月、大私教小中高校部執行委員会)の呼びかけと軌を一にするものであり、示唆に富んでいます。

 とりわけ、全国的に注目される私学ならではの教育づくり・学校づくりの実践に共通して見られる特徴が、「独自のすぐれた教育方法の採用」による「学問と教育の進歩への貢献」という点にあることは、このことの証左です(注13)。

(3)国家主義・大国主義の干渉から私学教育の独立を守ることこそ、私学の自主性の発揮、「進取・在野の精神」の発現

 また、新自由主義的教育「改革」が、「日の丸・君が代」の異常な押し付け、「神の国」発言、教育勅語の礼賛と教育基本法改悪策動など、国家主義・大国主義と癒着しつつ進行している現状、そして「草の根右翼」と結びつく一部私学経営者の動向(注14)を見るとき、「政府の干渉に対し、学問と教育の独立を守ろうとしてきた」私学の進歩的伝統の継承・発揮こそ、まさに私学の「進取・在野の精神」の具体的発現というべきです(注15)。

 (4) 今こそ、私学の自主性と公共性の統一と新たな飛躍を『ムダを省き』で私たちは、「学園財政と管理・運営の民主化・効率化」の重要性を指摘、「21世紀私学助成政策」においても、「高い自主性と公共性の統一こそ抜本的私学助成の国民的コンセンサスの前提」と強調しています。

 学園財政の全面公開と父母・生徒参加の民主的学園づくりをすすめることが求められます。

 同時に、『提言』は、「宗教教育」を推奨していますが、このことは、自民党の宗教教育を利用した「心の教育」の推進と深く結びついています。そもそも私立高校における宗教教育のありかたについて、大私教はすでに1980年9月「『公費民営私学』の検討を呼びかける」において、指摘してきたところですが(注.16)、今日、民主的陣営の側からも憲法20条との関連において、強い疑念が提起されており、検討・見直しが求められます(注17)。少なくとも、設立法人の特定宗教教育が必修科目に組み入れられていたり、生徒・教職員を特定宗教行事に出席を強制するような事態、さらに理事長・理事構成などにおいて、学校法人が宗教法人に従属しているような事態が、そのまま放置されるなら、そのような学校法人への公的補助が、憲法89条違反の疑いをもたれることは、当然だからです。



おわりに

1.「競争と選択」か、「参加と共同」か 

 『提言』は学校・教育を「商品」とし、需給両面にわたり「選択の自由」を強調します。ここには学校づくり・教育づくりにおける、父母・教職員・生徒の共同はまったく入り込む余地がありません。

 世界人権宣言(1949年)第26条「教育に関する権利」は、第1項で「すべて人は教育を受ける権利を有する」と謳い、第2項では教育の目的について「教育は人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない」とした上で、第3項で、そのためには「親は子に与える教育の種類を選択する権利を有する」としています。「選択の自由」は本来父母・国民の教育権を保障するためのものであって、決して教育に「市場原理・競争原理」を貫徹させ学校を「教育産業」化するためのものではなく、ましてや子ども・青年を差別し選別するためのものにしてはなりません。

 「競争と選択」か、「参加と共同」かは、鋭い彼我の対決点となっています。私たちは、昨年夏以来、「父母・生徒参加の新しい学校づくり」を提唱、「大阪私学助成をすすめる会」結成20周年を迎える今秋の私学デー集会を、その第1歩と位置付けました。その成功、とりわけ生徒の参加と「意見表明」が求められます。

2.私学振興助成法見直しの緊急性

 これまで、私たちは現行私学振興助成法の限界と問題点についてしばしば確認してきました。今回の『提言』も、見方を変えれば、振興助成法の枠内での主張という側面があります。同法第3条(学校法人の責務)は、「学校法人は、この法律の目的にかんがみ、自主的にその財政基盤の強化を図り、その設置する学校に在学する児童、生徒、学生又は幼児に係る修学上の経済的負担の適正化を図るとともに、当該学校の教育水準の向上に努めなければならない。」と規定しているのです。「自主的にその財政基盤の強化を図」ることは学校法人の責務、なのです。

 この第3条は、国や都道府県府を私学助成の法的責務から解き放つことの代替として規定されました。

 『提言』の私学助成削減、私立高校の「自主的・主体的改革」の要請という基本的構図と、本質的に一致するものです。

 全国私教連「21世紀私学助成政策」は、新たな私学助成法の一例として「私学教育費国庫負担法」(仮称)を掲げています。一読をすすめます。

 3.「降りかかる火の粉を払うたたかい」と「火元を断つたたかい」を結合して

 『提言』のもつラジカルな私学「振興」策は、圧倒的多数の私立高校を「自然淘汰」の淵に追いやり、ほんの一握りの私立高校の存続と寡頭支配すら予定しています。この路線は、私学経営者の間においても、覆いがたい矛盾として顕在化し、「政権党に媚びへつらう」これまでの作風を劇的に転換する力と条件をつくりだすでしょう。

 私たちは、過日の第52回臨時総会で『提言』路線粉砕の闘争方針を確立しました。

 学校統廃合反対のたたかい(火の粉を払うたたかい)と、「関空二期工事やベイエリア開発など無駄な大型プロジェクトをやめて、教育・福祉優先の府政に切り替える」「府政と国政の革新」(火元を断つ闘い)を結び付け、徹底した参加と共同による広大な陣地を構築し、国民のための私学、「安心と信頼の学園づくり」に向けて前進しましょう。








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