争 議
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2010/04/22
| 近大泉州(飛翔館)高校不当解雇撤回・原職復帰裁判 第1回控訴審 | | 4月13日(火)午後1時45分から大阪高等裁判所において、飛翔館(近大泉州)高校第一回控訴審が開かれました。この日は原告代理人の下迫田弁護士が控訴理由を陳述しました。 | | 意見陳述 第1審原告ら訴訟代理人弁護士 下迫田 浩司
我々は、123頁に及ぶ長大な控訴理由書を書きました。なぜ我々は控訴しているのか。ここでは、特に重要な点に絞って、4点だけ述べます。
第1 人員削減の必要性はなかった
第1に、人員削減の必要性がなかったという点です。 被告の説明によれば、解雇の1年以上前の平成19年3月23日の理事会において、最低18人以上の削減を決めたということです。この「18」という数字はどこから来たのかと言いますと、平成19年度当初予算における消費収支超過額を専任教員1人あたりの人件費の平均で割った数字です。消費収支超過額がおよそ1億円でして、これを人件費の平均である590万円で割りますと、17.25となり、端数を切り上げて、18人としたというのです。 さて、この数字には、2つの間違いがあります。まず1点は、「消費収支差額」、2点目は、「決算」ではなく「予算」という点です。 原判決は、消費収支差額の意味も私学における基本金の意味も全く理解しないまま、単に、学校法人会計基準29条が「基本金を組み入れることを要求している」ということを根拠として、消費収支差額を削減人数を決める際の基準とすることを肯定してしまいました。なぜ、要求しているのか、法の趣旨がわからないまま、法律に書いてあるから「何らかの意味があるでしょう」というのです。 しかし、「何らかの意味があるはずだが、何の意味があるのかわからない」というようないいかげんな認識で、解雇が必要と判断されてはたまりません。 原告側はもちろん、被告側が提出した会計専門家の意見でさえ、「消費収支差額は損益計算の基準ではない」「帰属収支差額が基準である」というものでした。日本私立学校振興・共済事業団も、日本私立大学連盟も、基準は「帰属収支」です。 原審裁判所は、会計専門家の間では常識とされる基準さえ理解せず、学校法人会計基準29条の趣旨も検討せずに、単に「規定があるから何か意味があるのであろう」として、被告が消費収支差額を算定基礎にしたことを許容しました。不当としか言いようがありません。消費収支差額を算定基礎にしたことは、あらゆる意味において、不当です。 次に、もっとひどいのは、1年前の「予算」で決めて本当にそれでいいのか解雇時に全く再検討しなかったことについても、許されるとしたことです。 本件解雇は、平成20年3月29日付、年度末です。決算はまだですが、計算に必要な数値はほとんどそろっていました。仮決算は十分可能でした。1年前の予算がおおむね正しかったのか、決算の数値との間に大きな違いはなかったのか、大量整理解雇という重大なことがらを前に、再度、検討すべきというのが常識です。しかも、被告は、過去において、予算は厳しく見積もるのが通常でした。予算はあくまで「見込み」であり、実績との乖離は大きいのです。平成19年度の場合、消費収支差額では2613万円、帰属収支差額では2432万円もの差額でした。 これを先ほどの専任教員の人件費で割ると、4.4人違ってきます。もともと17.25人を四捨五入せずに切り上げて18人を削減するとしていたわけですから、4.4人減るとなると、整理解雇する必要があるのは7人ではなく2人ということになります。先ほど述べました消費収支差額で解雇人数を決めるというおかしな計算方法を前提としても、1年前の「予算」ではなく「決算」を基準とすれば、解雇必要人数は7人ではなく2人となるのです。 ところが、原審裁判所は、「決算前だから」というだけの理由で、1年前の「予算」を基準として解雇人数を決定したことを肯定してしまいました。 さらに、本件解雇に際して、退職者のうち、1名を常勤講師として採用し、解雇前に立命館大学や同志社大学に新卒者対象の教員募集をし、多数の非常勤講師を新規採用しました。翌年度にも多数の常勤教員を採用しています。 そもそも、片一方で余剰人員として整理解雇しつつ、片一方で新規採用するのは矛盾しています。被解雇者が「余剰」でなかった、必要な教員であったことが明らかです。また、計算してみたところ、単年度の経済効果もほとんどありません。最大限で見積もっても、せいぜい300万円程度の削減額であり、弁護士費用の負担なども考えれば、赤字になっていると思われます。 第2 解雇回避努力がなされていない 第2に、解雇回避努力がなされていないという点です。 解雇の1年以上前の平成19年3月23日の理事会において、最低18人以上の人員削減が決定されました。この18人という数字を算出するに際しては、先ほど申しましたとおり、「帰属収支差額」ではなく「消費収支差額」の数字、しかも、「決算」ではなく「予算」を根拠としていて、それ自体、全く不合理なのですが、それはともかく、解雇の1年以上前の平成19年3月23日に理事会で、最低18人以上人員削減すると決められたのです。 その後、平成19年12月10日までが「空白の8か月半」です。12月10日の組合との団体交渉の席上で早期希望退職者の募集について話をするまで、8か月半もの間、学園側は解雇回避努力を何もしてきませんでした。第1審の法廷においても、事務局長の石本証人は、8か月も9か月もの間、整理解雇を避けるために何をしてきたかということを最後まで答えられませんでした。 また、平成19年12月以降の早期退職者募集も、到底、解雇回避努力といえるようなものではありませんでした。いうまでもなく、整理解雇というものは、労働者に落ち度がないのに、経営上の都合により雇用契約上の地位を一方的に奪うものでありますから、それは最後の最後に採るべき手段でありまして、仮に人員削減の必要性が認められる場合であっても、まず、解雇回避努力を尽くすことが求められるわけであります。そのような最後の最後の手段である整理解雇を強行するのも止むなしといえるために尽くすべき解雇回避努力というのは、当然のことながら解雇回避努力の名に値する真摯なものである必要があります。たとえば希望退職者募集の場合、単に形式上希望退職者を募集したというだけでは、到底解雇回避努力を尽くしたとは言えません。解雇回避努力の名に値する希望退職者募集とは、労働者に一定の考慮期間を保障し、また、労働者に退職を希望させるだけの魅力を備えたものでなければなりません。退職を希望させるだけの魅力とは、特に、退職金の上積みや再就職先のあっせんです。ところが、本件における希望退職者募集は、退職金の上積みなどはなく、現行規程どおりの退職金を支払うというもので、再就職のあっせんもなく、それどころか、年度末が近づいていて、再就職先を探すことが不可能としか言いようのない時期だったのです。到底、労働者に対して退職を希望させるだけの魅力を備えたものとは言えません。
第3 人選の合理性を欠いたために、学園は大混乱 第3に、人選の合理性を欠いたために、学園が大混乱したという点です。 被告は、整理解雇の名を借りて、実際には原告らを学園から排除するため、およそ客観的、合理的とはいえない恣意的な人選をして、原告らを排除しました。 この人選は、学校教育という特殊性を全く考慮しない人選であったために、その後、教育に大混乱を引き起こし、生徒たちに多大な迷惑をかけてしまいました。たとえば、英語科では、整理解雇前には5名の専任教諭がいましたが、英語科の専任教諭が3名も整理解雇され、1名が早期退職したため、わずか1名しか英語の専任教諭が残りませんでした。本来、学校においては、教科ごとに削減可能な人数などを考えていかなければならないはずですが、そのような配慮は全くありませんでした。 このことを見ても、いかにずさんな整理解雇であったかが窺えます。
第4 説明・協議義務が全く尽くされていない 第4に、説明・協議義務が全く尽くされていないという点です。 いわゆる整理解雇4要件の第4要件にあたる手続の相当性についての原判決は、一般論においても、事実認定・あてはめにおいても、非常に問題を含んでいます。 いわゆる整理解雇4要件の第4要件、手続の相当性に関する要件は、数多くの裁判例により確立されてきました。その内容は、「整理解雇が有効となるためには、使用者が労働組合または労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき納得を得るための説明を行い、さらに誠意をもって協議すべき義務を尽くしたことが必要である。」というものです。 ところが、原判決は、被告が組合及び労働者に対し整理解雇の人数及び方法等について説明していないという事実を認定しながら、「被告が、本件組合及び労働者に対し、本件整理解雇の時期、規模及び人選基準等を説明しても、協議の進展の見込みは非常に疑問であり、……前記ア認定の程度の説明にとどめたとしても、これを全く不合理とも断定し難いところである。」としました。 要するに、実際には説明義務・協議義務を果たしていないのに、後から裁判所が「どうせ説明しても協議の進展の見込みはなかっただろう」と推測すれば、解雇は無効にならないことになるかのような一般論を立ててしまったのです。これは、今まで積み重ねられてきた説明・協議義務に関する一般論を大きく後退させるものであり、非常に問題です。 原判決は、事実認定においても、重要な事実の認定を漏らしています。「平成20年3月28日の団体交渉において、財政再建策について、組合は、更なる賃金削減策にも応じる用意があることを再度言及した」という重要な事実が存在します。これについては、原告側と被告側で一致しています。第1審の証人尋問において、石本事務局長もこのことを認めました。それなのに、原判決はこの事実に触れることさえしていません。 そして、組合が更なる賃金削減策にも応じる用意があることを再度言及したという重要な事実に触れないまま、原判決は、漫然と、「協議の進展の見込みは非常に疑問」などと判断しているのです。 要するに、協議の進展の見込みが非常に疑問だったら説明・協議義務を尽くさなくてよいという一般論自体が問題であることに加え、そもそも組合の側から更なる賃金削減策にも応じる用意があることを言及しているにもかかわらず、漫然と「協議の進展の見込みは非常に疑問」などと言っている点で、二重に間違った判決なのです。
第5 結語 以上のように、原判決は、大きな問題を数多く含む判決です。しかも重要なことは、これらの問題点の1つでも崩れると原判決の結論は崩壊してしまうということです。 「消費収支差額」基準を「帰属収支差額」基準に修正するだけでも、結論が覆ります。 「予算」基準を「決算」基準に修正するだけでも、結論が覆ります。 解雇回避努力の有無の判断だけによっても、結論が覆ります。 人選の合理性についての判断だけによっても、結論が覆ります。 説明・協議義務を従来の裁判例どおりに解することだけによっても、結論が覆ります。 組合が更なる賃金削減策にも応じる用意があることを再度言及したにもかかわらず「協議の進展の見込みは非常に疑問」とした非常識な評価を変えるだけでも、結論が覆ります。 その意味で、原判決は、いわば、何本かの細い棒に支えられてかろうじて立っているテーブルのようなものでして、細い棒が1本でも折れれば崩れてしまうような不安定なものです。 どうか控訴審裁判所におかれましては、ぜひ、しっかりと審理され、適切な判断を下していただきたいと思います。
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