争 議

2011/08/22
大阪高裁・飛翔館高校整理解雇逆転勝訴判決を受けて 
声  明
2011年8月10日 
全国私教連常任顧問弁護団 
1 整理解雇・画期的逆転判決下される
さる7月15日、大阪高等裁判所第3民事部(岩田好二裁判長)は、飛翔館高校(現・近大泉州高校)整理解雇事件について、整理解雇を有効とした一審・大阪地方裁判所堺支部判決(山田知司裁判長)を取り消し、一審原告全員について解雇権を濫用し無効とする逆転判決を言い渡しました。
この判決は整理解雇においても、解雇が最後の手段との見地に立ち、解雇の必要性・相当性について綿密な事実認定をし、当事者との誠実な協議のない解雇を厳しく論難する点において、労働者の権利を正当に評価するもので、昨今一部に見られる安易に整理解雇を認める傾向を強く批判するものとして画期的な判断です。
飛翔館高校は、「だんじり祭り」で有名な大阪府岸和田市の唯一の私立高校ですが、理事会は、2008年3月29日、7名の教員を整理解雇にしました。その結果、2007年度中に希望退職に応じた教員もいれると、専任の半数に近い18名の専任教員が退職することとなり、理事会では2008年4月から22名もの非常勤講師を採用したのでした。
このような事態に6名の教員が解雇無効を求め提訴したところ、2009年12月18日に言い渡された大阪地裁堺支部判決は、人件費の安い労働者への入れ替えを認め、協議しても合意に至る見込みが少ない場合は協議がなくても解雇手続きが不相当とは言えないとして、原告5名の内1名は人選の合理性がないとしたが、残り4名の整理解雇は有効としたのでした(なお、1名は裁判途中に取下げ)。
この不当判決について原告らは直ちに控訴し、全国私教連では原告らの控訴を全面的に支援し、その控訴審を共に闘ったのでした。
  そして、今般の大阪高裁判決は、整理解雇が労働者に及ぼす不利益の重大性に鑑み、あくまで解雇は「最後の手段」であり、解雇が有効かどうかは、一般論として、@解雇の必要性があったか、A解雇回避の努力を尽くしたか、B解雇対象者の選定が合理的であったか、C解雇手続が相当であったかを総合考慮して決するのが相当として、改めて、従来通説・判例とされる見解を採用のうえ、上記@〜Cについて丁寧に事実認定の上、以下のような法的検討を加え、本件解雇は@ACの要件を満たしておらず、Bを検討するまでもなく、5名全員について整理解雇無効と判断したものです。



2 整理解雇の必要性の判断のあり方について
学園は、削減人数の算出方法として、「平成19年度という単年度の予算上の消費支出超過額を専任教員1人当たりの平均給与等で除する」という方法をとりましたが、「単年度」であること、「予算の数値」であること、「担当する教科を考慮せず、対処するための補正措置をあらかじめ織り込んで計画していないこと」「収支の均衡(採算性)は帰属収支によって検討するのが妥当と解されること」「整理解雇前に11名の退職が予定されており、財務状況は相当程度改善されると予測されたこと」等から、学園の上記計算方法は、合理性を肯定することができないとしました。
また、採算性を悪化させた1つの原因として、整理解雇前である平成18年度の退職割増金の支払いを指摘し、退職勧奨によって資金繰りを一時的に悪化させながら、これを新たな事由として整理解雇をするのでは、人員削減が無責任、無計画なものとのそしりを免れないとしました。
さらに、「人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されない」としました。そして、その理由は、「同程度の人件費の削減を実現するのであれば、人の入れ替えの場合よりも少ない人数の整理解雇で足りると解されるし、また、このような人を入れ替える整理解雇を認めるときは、賃金切り下げに容易に応じない労働者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引き下げを強制するなどその正当な権利を不当に侵害することになるおそれがあるからである」としました。



3 解雇回避の努力はどうあるべきか
まず、「合理的な人員削減計画を策定することは、解雇回避努力の前提事項といえるところ、本件では、その前提事項が満たされていない」としました。
次に、解雇前に予算と決算との差や11名削減の効果を検討した形跡がないことを指摘しました。
さらに、労働組合が人件費削減策に応じる用意があると申し入れたことに対し、情報を独占している学園において財政再建策を提示しなかったことにつき、学園側の責任を認め、全体として、回避努力を尽くしたものとは直ちにいい難いとしました。



4 解雇手続の相当性=協議を尽くすのが公序であること
学園は、手続きとして著しく適正さを欠く不誠実な対応であったとし、相当性を欠く瑕疵があったとしました。
すなわち、学園は、整理解雇の予定について、平成20年2月26日まで明確に告知することはなく、その後も、解雇人数や人選基準を明らかにせず、解雇回避のため組合からの人件費削減の応諾の申入れにも対応しようとしなかったのであり、実質的な説明や交渉ではなく、結論のみの一方的な告知、通告に終始したという他ないとしました。
そして、教員らの激しい抵抗については、学園のとった手続きが不適正であったことの裏返しと評することができるから、そのような教員らの行動の責任が教員らだけにあるとはいえないとしました。
この点、地裁判決では、協議進展の見込みが少ないことが予想された等を理由に、説明や協議をしていなくても不合理とも断定し難いとしていたのですが、本判決は、「1審被告が、その財務状況を踏まえて人件費削減の必要性を訴えても、1審原告らあるいは本件組合との間で結局話し合いは平行線をたどった可能性も否定できないものと推測される。」としつつも、「しかし、そうではあっても、整理解雇を行う使用者は、組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきである。整理解雇のような労働者側に重大な不利益を生ずる法的問題においては、関係当事者が十分意思疎通を図り誠実に話し合うというのが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである。」としたのです。この行には地裁判決に対する高裁の怒りさえ見てとれます。



5 闘いは最高裁へ
ところで学園はこの判決に対し直ちに上告をなし、闘いの場は最高裁に移ることになりましたが、今、最高裁には、福岡高裁での不当な整理解雇裁判を闘う福岡・自由ケ丘高校事件が現に係属しています。同事件では、財政的には十分な余力がありながら、「整理解雇」を口実になした解雇の是非・相当性が問われています。「解雇が最後の手段」との立場に立つならば、自由が丘高校事件の結論も自ずと導かれる筈です。
  それだけに大阪高裁の本判決が、「人の入れ替えは認められない」「労働者や労働組合と誠実に話し合うことが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである」と喝破した点に大きな意味があります。
  全国私教連常任顧問弁護団では、このような本判決の意義を高く評価し、今、全国で整理解雇攻撃を受けている学校現場や組合各位に対し、一層、本判決を活用されるよう呼びかけます。
(以上)






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