公費助成運動

2013/01/16
2012年10月14日 全国父母懇・すすめる会交流集会 記念講演メモ
「子ども達にしのびよる市場化の波」ジャーナリスト 堤 美果氏
目に見えない津波が日本にもやってくる。
1)現在のアメリカの取材から
1)現在のアメリカの取材から
○今、アメリカの大統領選を取材に行っている。その中でも一番取材の割合の大きなのが教育の現場。9.11以後の10年間、教育の現場で大変なことが起こっている。
    ★5年間で退職する教師=2人に1人
    ★退学していく生徒=10秒に一人 
    ★学資ローンに困窮=6人に1人
    ★小学生の肥満児=3人に1人
○シカゴで、教員のストが起こっている。このストには教員だけでなく父母も子どもも参加している。スローガン Education not for Sale ! We need Teacher !
教育を売り渡すな! 先生をかえせ! と、100万人規模の教育要求デモが起こっている。しかし、このデモの話は日本の報道機関は報道していない。
 ★なぜ教育の市場化をねらったか。
 製造業の衰退によって、組合組織は大きく衰退して力を失ってしまった。
 サービス業では組合そのものがほとんどない。
 そうした中でもまだ組合組織が比較的きちんと運営されていたのが教員組合。
 教員の組合は組織だけで政治を批判するだけでなく、教育の場で子ども達にも批判的な考 え方を教えることが出来る。
○もっと大きなのは、ウォール街デモ。「なぜ私達は貧しくなったのか」「99%の反乱」としているが、アメリカでは最近中流と呼ばれる人達が居なくなって、その人達が貧困化し、1%の富裕層が、政治も社会もすべて支配してしまっている。




2)アメリカの貧困の原因は何か。
○アメリカの貧困の最大の原因は、本来民営化してはならない業務を政府がすべて市場化・民営化してしまったことから始まる。
    
    ☆教育 ☆福祉
    ☆医療 ☆戦争
    ☆保育
★これらの項目は数値化した成績評価がしにくい。
★こうした結果を数字で表せないような仕事は国や地方公共団体が責任を持って、実施する必要がある。
★民営化すると、チェック機能が働かない=無責任体制の拡大

○そんな中で起こった THE SHOCK DOCTRINE
感情的になるであろう場面ばかりを国民にずっと見せつけることで、理性で考える力を失わせ、その間に重要な法律の改正をやってしまう。(民営化に向けた法改正など)
○9.11以後、毎日の様にすべてのテレビで見せつけられる「同時多発テロ」の映像に、人々は仕事・生活・将来などを考えず、目前に見せられるテロの映像で「次にテロが起こったらもう終わり」という感情的な部分だけが全面に出てしまった。実際、全米の人が銃を買いあさった。
○この時期に、すべての事業を民営化していく法改正が議会で成立してしまった。さらには合衆国憲法の理念をも覆してしまう『愛国者法』が、充分な審議もなく議会を通過し可決されてしまった。(内容はテロの芽を摘むために挙動不審者をブラックリストに挙げ、検挙することもある)国民には反論する余裕もなく「テロの芽を摘む」という大義名分に、納得させられてしまった。
○この結果、全米で3000万台の監視カメラが設置された。そのカメラは「学校の教室」にも設置されることになった。(結局はすべての一般民が当局から監視されることに)
○その結果起こったこと。
 ★反政府に関わる人はすべて「ブラックリスト」に。
  組合運動家、民主的思想家、市民運動家などは当然リストに入ることに。
  (この場にいらっしゃる方々は多分全員・・・)
 ★ある教師が「憲法」の授業をしていたら、その授業を監視カメラで見ていた当局が、そ  の教師の解雇を決定。=本人には何が理由なのか話さず。
 ★突然飛行機への搭乗を拒否される。=理由は明かされない。
 その他、民族的な差別はさらに・・・・
○当局はすべての国民の行動を監視することが出来るようになり、政府(1%の人々)にとって都合が悪いとなればすべてブラックリストにあげる。本人は見られていることも気づかないし、自分のどこが問題なのかも明かされることはない。当局に聞く事もできない。



3)教育現場に課せられた市場化の波。『落ちこぼれ“0”法』
○これまでは、教育はどちらかというと地方分権、州ごとに教育のあり方はいろいろで、自由な教育が行われていた。しかし、世界標準の学力テストの結果を受けてこの法律が制定されると、これまで州単位であった教育を、これからは国が一括して指導するとして、学校評価を通じて、予算配分を決めるといい、その評価の基準は全国一斉学力テストだという。
○その結果どういうことが起こったか。
学校評価=学力テストの点数=結果により予算配分を行う。人事面で攻撃を加える。
 ★予算は学力テストの結果で決定するから、悪い点数の学校は予算が配分されない。
 ★人事面では、途の点数の悪かった学校の校長は罷免し、マネージメントの出来る民官の  人材を派遣する。
 ★先生方は多忙を極める=予算削減→教員不足→クラス定数の増加→余裕無し
  先生方は「点数の取れるテクニック」の教え方を学び、生徒に教材の内容よりも「点数  の取り方」だけを教える。
  出来ない生徒にゆっくり教えていたのが、そんなことに割く時間がなくなる。分からな  い子はさらに分からなくなる。
 ★本来教育は「先生」「保護者」「地域」が協力して作り上げることが大事であるにもかか  わらずそれが出来なくなってしまう。=教師と保護者\地域の分断。
 ★「点数」それも「国語」「数学」だけが要求されるため、それ以外の科目、特に芸術・  体育などの「情緒」に関わる科目の時間が削減されるし、生徒は「答えを詰め込まれる  だけ」で、批判的な発言は出来ず「考える力」がなくなってしまう。(文化についての  学びを通じて、人間は批判的な思考を獲得する場合が多い)
 ★今まではファーストネームで呼び合い、一緒に人生や恋愛・進路・人間関係など様々な  ことをゆっくりと話し合えた先生はどこにもいなくなった。
 ★点数がすべてに優先することから、カンニングなどの不正行為の奨励?(教師が奨励)、  出来の悪い子へのテスト当日に欠席するように示唆するなど、本来の学力テストの目的  とはまったく違うことになってしまう。
 ★競争が優先される中で、教科の中身を理解させることより、無批判に教え込むことで、  トータルにいろいろな方面から見るような考え方が出来なくなってしまっている。勢い  多面性を認めたり、多面的に考えたり議論が出来なくなり、行き着くところは体制にた  いし批判的になれない人間が作り上げられてしまうことになる。
 ★これまで教育は「市民」を育ててきたが、「市民」が育たなくなってしまったら、国そ  のものがなくなってしまう。(市民があってこその国家)
○こうしたことにならないためにどうするか
 ☆過去を見る。=過去はどうだったかを点検する。
 ☆お金の流れを見る。=この政策は誰がお金を出して作ったのか。この組織の出資者は?
 ☆法律の流れを見る。=法律がどのように作られたか。
 ☆違和感を見逃さない。=何かおかしいと感じたら、その理由を考えてみる。
 ☆政治から目を離さない。=政治は「お上」ではない。誰のためになるかをよく見極める。
 ☆教育にこそ予算を!=教育は次の世代を育む大事な事業。
 ☆先生と親と生徒が手を離さないこと。=分断はいつでもやってくる。



4)経済徴兵制という名の兵員募集?
○法律で「すべての学校は、生徒の個人情報を“軍”に提供しなければならない」と規定
提出しなければ予算100%をカットすると。
 ★今アメリカは製造業が空洞化し、働くとしてもサービス業のみ。このサービス業には社 会保険などが充分保障されていない。また、健康保険も日本のように充実していないから、 ちょっとした病気やケガでも大きな医療費がかかる。また、大学の進学資金も大幅に値上 げされている。学資保険は民間だから、高利貸しの借金と同じ。=すべてが民営化される ことで、今まで政府が提供してきた福祉が市民には非常に重い負担を伴うものになってし まう。
★裏口徴兵制度(経済徴兵制) 兵員募集キャンペーンで 
 こんな誘いの手口「今兵役に応じてくれたなら、大学の費用は軍が面倒見るよ。軍に入れ ば医療保険だって出るし、したい仕事の□も取れるよ。調理師になりたいなら、軍の補給 部隊に入れば、退役後の就職口は引く手あまただよ・・」と
 ここに示した軍の誘いの手は、すべて政府が手を離し、民間に移行したものばかり。それ を軍が提供することで、兵員の補給をしてきた。
 まさに経済徴兵制=ブッシュ政権は戦争を続けるために国民を貧しくし、兵員の補給を容 易にさせていた。
○帰って来た退役兵は?リーマンショックで仕事もなくホームレス状態に。
○政治家に献金していたのは誰か? 戦争継続で儲かる業界の幹部。
 ブッシュ氏の背景には軍事関係の企業が。
○前の大統領選での討論会で議論にならなかったイラク戦争。戦争ありきが前提の討論会が当たり前に。オバマも対立候補も政治献金を大量に受けていた。




5)恐ろしい学資ローン
○教育の民営化の中で、大学の学費がどんどんふくらんでいった。親たちが通っていた時代の数倍の金額になってしまい、中流家庭の収入ではカバーできず、勢い「学資ローン」に頼ることになる。
○学資ローンは基本ローンだから、一般の消費者金融と変わらない。
 ★ある大学卒業生は約600万円のローンを背負っていた。一定期間返済をしたが、病気 などで仕事を休み、医療費にお金がかかったから何ヶ月か滞納が続いた。するとローン会 社から連絡が入り、「あなたのローンは不良債権として、別途の業者に譲渡しましたから、 今後の請求と返済はその業者と行って下さい。」という。その後も滞納は続き、ついに債 権の額は1000万円を超える事になった。
 ★自己破産も出来ない学資ローン。その学生に自己破産して、借金を清算した上で次の生 活をしたら良いと話すと、学資ローンは自己破産の対象にならないので無理だと答えた。
 実はクリントン大統領の時代に「消費者保護法」の対象から外されてしまっている。
 ★学資ローンはネット申込みが普通で、ワンクリックで借りることが出来、しかも「契約 約款」などは一切読んでいない。
 ★その学資ローンの会社の社長の収入を聞くと?「450億円」だという。



6)学資ローン破綻者を標的にした派遣業者
○学生は学びたかっただけなのに、こんなことになってしまったのはなぜだろう?
○こうした学生に対し派遣業者から勧誘の電話がかかる。「今学資ローンで困っているみたいですね。実は年俸1000万円の仕事があるんだけれど、君もろくな仕事もないだろうからやってみないか」と。
 ★派遣先はイラン・アフガニスタンのアメリカ軍の周辺警備が主な仕事。
 ★軍には一定のミネラルウォーターが支給されるが、派遣会社の社員には支給されず、現 地の川の水を飲むしかない。しかしその水はアメリカ軍が大量に使った劣化ウラン弾のお かげで放射能汚染されており、飲み続ける内に「白血病」になる。途中で帰還すると契約 違反で年俸が支払われないために、病を隠して仕事を続けるが、帰国した時には病気は進 行して手を付けられなくなり、医療も受けられず、受けても巨額の医療費を払わねばなら ず、またローンのくり返しに。
 ★イラン・アフガニスタンの戦死者の51%派遣遣社員。軍人は戦死者として一定国民に 知らされるが、派遣社員は何もなく死んでいくだけ。
 ★軍の撤退後も派遣社員は残留し、戦死していくが、そのことは誰も報道しない。



7)教育の市場化・給食の市場化が子どもを肥満に!
○教育の民営化がもたらした教育現場で次に起こったことは、給食の民営化。
本来給食は、管理栄養士が栄養の配分を考え、地産地消を前提に子ども達に提供されていた。こうした給食のあり方はお金がかかり、教育予算を削減された学校にとってかなり負担になる。
○そんな学校にマクドナルド・ケンタッキー・サブウェイなどの大手ファーストフード業者の担当者から電話が入る「私の会社が給食を引き受ければ、工場直送の素晴らしい食材を提供しますから、電子レンジくらいで良いですし、給食室などの設備も調理師の雇用費も必要ありません。電子レンジで、先生や生徒がちょっと手を加えるだけで大丈夫で、子ども達に喜ばれる給食を提供できます。ついでにキャラクターのおまけも付けますから、そんな給食が出ている学校ならと、生徒も集まりますよ」と。
○その結果出来た給食は、非常にカロリーの高い、しかもめちゃくちゃ濃い味のひどい給食が出てくることに。味の濃い場合水分が必要だからとジュースもついているが、そのジュースも「果汁0」と、子ども達は毎日そうした給食に慣れてしまい、家庭での食事もファーストフードを好むようになる。結果は「肥満」「糖尿病」へ。
○クリントン夫人が「肥満解消に向け運動を」と呼びかけたが、すでに「落ちこぼれ0法」で体育の時間がなくなってしまった学校では、運動も出来なくなってしまっている。


8)子どもが市場化の標的に
○2005年、台風カトリーヌの被害を受けたアメリカ南部のニューオリンズ。ジャズで有名な町だが、この町の復校に向けて応援募金キャンペーンがはられた。
アメリカは募金の週間が根付いているため、このキャンペーンに多額の募金が寄せられたが、実際に使われたのは現地の人の復校ための物ではなく、新しい工場を現地の人を使わないシステムで造るために使ってしまった。現地人の雇用は全く増えなかった。
○また、公立の学校には復興予算を全く使っていない。もともと学力の低い地域であったこの地域の教育は復校する必要がないと、チャータースクールだけを復興させた。
○この地域は教職員組合もしっかりしており、父母・地域との関係もしっかりしていたが、この台風の後、教育難民が増えた。チャータースクールに通えるのは一部の裕福な家庭の子ども。比較的貧しい家庭が多かったこの地域では、公立にしか行けない子どもがいて、その公立が復興されなければ行く学校がない。
○チャータースクールは、得点をあげれば予算が増えるシステムだから、投資の対象ともなり、ビルゲイツなど1%の富豪が投資し、学校全体の点数が上がらなければ校長を解任した上で、マイクロソフトの有終なマネージャーを校長に送り込むことにしている。7年経てば2倍の配当があるとも言う。
○チャータースクールの経営者は日本にも進出したいと言うが、日本にはまだまだ法規制が厳しいので、それを取り除く方法を教えてほしいと堤氏に聞く場面もあったと。



9)3・11は日本の国際市場化の大きなチャンス
○3・11は、SHOCK DOCTRINE のチャンス。
何度も流し続けられる津波の映像に「次は」という感情的な恐怖だけが国民の意識を支配している。その間にすすんでいるのが、TPP交渉。
○TPPに関連して大きく取り上げられているのは農業の場合だけのようになっているが、TPPは、実はすべてのヒト・モノ・カネの移動を自由化しようというものであり。アメリカの投資家や1%の人々のためのもの。
○民主党はTPPを受けると言っているが・・・・
○TPPには「ISD条項」があって、例えば日本の法律や慣行が海外ビジネスを脅かすものとしてとらえられれば、いつでも国際的な裁判に訴えることが出来、その裁判をする側の中心メンバーはすべてアメリカの1%の影響(献金)を受けているから、今までアメリカが提訴して負けたことがない。アメリカが提訴すれば、日本はすべての場面で規制緩和し、市場化の波にすべての政策をゆだねなくてはならなくなる。
○よって、自由貿易といえば聞こえは良いが、アメリカのための自由貿易だということを忘れてはならない。


10)貧困大国アメリカのすべてを買った1%の人々
○アメリカの大統領選には多額の資金が必要。共和党にも民主党にも1%の人々から多額の献金が送られている。=これまで市場化・民営化した結果利益を受けた会社がそれ。
○アメリカは最近企業献金額の上限を取り払ってしまった。今年の大統領選にはさらに多額の資金・献金が送り込まれ、その結果政治そのものが買い取られたことになるであろう。その状況は日本の比ではない。
○TPPは1%のためにやることは確実。国会議員であってもTPPの下交渉の状況を知ることは出来ない。通商担当であっても。見ることが出来るのは財界600社の幹部だけ。
国の外交政策の準備を財界がしている。
○彼らはカネで大統領も国会議員も買い、その力で法律を作らせ、その法律に則ったと「合法的」に国民をむしばんでいく。国民が無関心であればあるほど、その合法性?はすすんでいく。



11)こうした政治を作らないために
☆テレビをやめて活字に戻ろう=テレビは受動的媒体なので考えない習慣が身についてしまう。活字は自分のペースで創造的に読むことが出来る。受動では判断は出来ない。
☆自分や周囲以外の違った価値観の人と話そう=外国人と話す。ネットでつながることも大事。考え方の違いを交流していくこと。そこから批判が生まれてくる。
☆政治を信用しない=政治家は必ず嘘をつくと考える。その裏に何があるか、お金はどこからどこに流れたか。を調べてみると政治の行く先が見えてくる。
☆選挙に行こう=1票は無力かも知れないが、行かなければ抵抗は出来ない。
 地方で「献金を受けない議員に投票しよう」運動が始まる。少しずつ新しい流れが生まれ ている。
☆大事なテレビ報道は真夜中の放送。夕方の報道は信用できない。
 日本が2030年代に原発廃止を考えていると言ったよりもずっと前に、アメリカには原発はやめないと報告していた。


12)質疑より
@バウチャー制はどう考えるか
○教育バウチャー制は一見平等の制度のように見えるが、公的資金による下支えがなければ、教育を競争に落とし込むことになってしまう。
○単純に生徒分だけが入ってくる制度では、失敗するし、教育がゆがむ。

A民主党と共和党だけ? 
マスコミでは見えない政党も大統領選に参加している。それを見せないのはなぜ?
○大統領選挙に出馬しているのは、2大政党だけでなく、緑の党などもあるが、それらの政党には資金がないためにマスコミに出ることも出来なければ、1%に牛耳られた討論会を左右する組織からも全く無視されてしまっている。
○ある小さな政党に地方テレビから連絡が来た「今ならテレビの放映枠を安く出来ますよ」と。マスコミに出ようとすればお金が要る。そのお金をどこから出してもらうか?ではなく、そのお金に頼らない政治を実現したいと戦っている。それが少しずつ地方で広がっている。
○石油メジャーのシェブロンが支配する町でも、献金を受け取らない議員が何度も当選している。それに業を煮やしたシェブロンが、大量の献金をした候補者を対立候補として3人出馬させたが、献金を受け取らない候補者だけが当選した。歩みは遅々たるもの火も知れないが、そうした小さな動きの積み重ねが、社会や政治を変えていくことになる。

以上





前の画面に戻る / TOPページへ

Copyright 2009 大阪私学教職員組合(大私教)